コラム

Vol.79

by ひきたよしあき 2022.01.17

「あったかい」のコトダマ

私が大学を受験した頃は、
受験会場の暖房が不十分でした。
ストーブに近い席だと暑すぎる。
廊下側の日の当たらない席だと
手がかじかみました。

たまたま聞いていた「ラジオ講座」の
先生が、

「靴下を一足余分に持って行きなさい」

とアドバイスをくれた。
受験当日、寒いところの席を
割り当てられた私は、靴下を二枚履きに
して試験に臨みました。
合格したのは、この靴下のおかげだと
今でも思っています。

受験は、日本がもっとも寒い季節に
行われます。

夜遅くに塾から帰るとき、
寒さと不安で、心身が凍りついていたのを
よく覚えています。

そんな時、母が夜食に用意してくれた
鍋焼きうどんのうまかったこと!
入浴剤の入った熱めのお風呂、
日中よく干された布団の気持ちよさ。

思わず、

「あぁ、あったかい」

と口からでてしまう。

この「あったかいのコトダマ」に
どれほど救われたことでしょう。

この季節になると、受験生の保護者の方に

「試験前に、どういう言葉をかけたら
いいのでしょう」

と質問をされます。

私はその度に、

「『あったかくすること』を心がけてください。
あったかい食べ物、部屋、お風呂、布団など。
まずは物理的に、気持ちのよい温かさを作って
ください。言葉がけよりも、その方がずっと
受験生のためになります。
お母さんやお父さんが、不安な顔をしては
いけません。お日様みたいにニコニコすることも
心がけてください」

と言います。

子どもが合格した保護者から、
必ず感謝されます。

新型コロナウィルス感染が再び
拡大しているこの季節はなおのこと。
手洗い・うがい・マスクのほかに
心身をあたたかく保って免疫力を
つけてあげましょう。

さて、受験生へのアドバイスです。

これは毎年、私の生徒たちに

「受験当日に持って行きなさい」

と手渡す「受験心得」です。

【受験心得】

一、 朝からキビキビ動いて脳を働かせる。

一、 トイレに行く。鏡の前で笑顔になる。

一、 開き直って、自信をもつ。

一、 強気、強気、強気と心で叫べ。

一、 深呼吸を忘れない。

一、 結果を気にしない。
   目の前の「一問」に集中する。

一、 いつもよりていねいに字を書く。

一、 時間の配分を間違えない。

一、 鉛筆から煙が出るほど、書きまくれ。

一、 最後の最後の最後まで、粘る。

この「心得」で、緊張で硬くなった心が
少しあったかくなってくれたら嬉しいです。

体調管理をしっかりと。
日に日に、春は近づいています。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。