コラム

Vol.103

by ひきたよしあき 2024.01.15

「未来」のコトダマ

先日、新幹線にスマホを忘れてしまいました。
焦りました。
スマホをなくすと、誰とも連絡ができない
ばかりか、お金も払えなくなってしまいます。

「なかったらどうしよう」

あたりの景色から色がなくなりました。
不安で押しつぶされそうです。

東京駅構内を歩いて、遺失物係を探す。
動揺しているので、なかなか見つかりません。
同じ道をいったり来たりして苛立つ。

「あぁ、なんてアンラッキーなんだ!」

と心の中で叫びました。
同時に咳き込んでしまったのです。

この咳き込みが、よかった。
ふと、コロナに罹患したときを
思い出したのです。
あのときも、

「後遺症がひどくなったらどうしよう」
「痛みは何日くらい続くだろう」

と不安に苛まれていました。

しかし、あまりの痛みのせいで、
開きなおる気持ちが生まれた。

「いつ治るか、後遺症がでるか、なんて
悩んだところで、未来が変わるわけじゃない。
予想もできない未来のことで悩んだところで
気持ちが暗くなるばかりだ」

駅の構内を歩きながら、このときのことを
思い出したのです。

「そうだよ、スマホがあるかないかを、今
悩んでも仕方がない。それは遺失物係を
訪ねてから考えればいい」

そう思って、深呼吸をひとつ。
首をぐるぐる回して、気持ちを入れ替える。
見れば、遺失物係はすぐそこにありました。

スマホは、無事に届いていました。
ビニールの袋に入ったスマホを受け取るとき、
「ありがたい」と思ったと同時に、
なかった場合はどういう行動をすべきかと
冷静に考えることができたのです。

「未来のコトダマ」は、私たちに教えてくれます。

どんなに思い悩んだところで、変えられない
未来についてクズクズと考えるのは時間の無駄。
メンタルにも悪い影響がある。

未来とは、今与えられている時間を
しっかり生きていれば、自ずと開けてくるものです。

病気になったら、今この瞬間、治すことに
専念する。
スマホを落としたら、悩むより見つける行動に
徹する。
今の考え方、動き方、生き方の延長線上に
未来はあります。

新しい年がはじまりました。
今年もきっと、思い悩むことがたくさん
あることでしょう。

その時に思い出してほしいのです。
「未来のコトダマ」が、心配するよりも
一瞬一瞬を充実させようと言っていることを。

想い惑わず、今に専念する。
そんな一年にしたいものですね。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。