コラム

Vol.59

by ひきたよしあき 2020.09.23

体操のコトダマ

自粛生活のせいで、足の筋肉が落ちました。
それでも体重が変わらないのは、
その分、脂肪がついたということでしょう。

外にでて、階段をのぼるとき、
鈍った体を自覚します。
足を上げるのが辛くなり、息があがります。

このままではいけない。

ふと思い出したのが
「ラジオ体操」
でした。
祖母の顔もいっしょに浮かびました。

私の祖母は、90歳近くまで
生きました。
いわゆるピンピンコロリ。
死ぬ前日まで愉快に過ごしていました。

元気の源は、「ラジオ体操」です。
毎朝欠かさず近所の公園に行き、
新鮮な空気を吸いながら体操することで、
弱い体を強くしたのです。

高齢になってからは少し有名になって、
アメリカの大学やスイスの山に囲まれた
中で「ラジオ体操」をするおばあちゃん
として海外の新聞に掲載されたりして
いました。

今こそ、孫の私がそれを継承すべき!

と思って、早朝の「ラジオ体操」を
始めました。

朝、スマホをもってベランダに出る。
窮屈な上に、隣のマンションから丸見えの
場所です。それにもめげす、
YouTube「ラジオ体操」にセットして
体を動かし始める。

「え?忘れてる・・・」

子どものころ、あれだけやった
体操をところどころ忘れています。

腰が痛い。手が伸びない。
跳躍できない、バランスが崩れる。

初日は、子ども時代との差に
愕然とするばかりでした。

90歳近くになっても、きれいに
前屈していた祖母の姿を思い出し、

「あれは努力の賜物だったんだ!」

と今になって気づいたのです。

何度も挫折しながら、今できる限りの
筋力と柔軟性で体操をする。
5分弱の運動で汗がたっぷり
でてきます。

やめる言い訳ばかりを提示してくる
自分の脳に叱咤と激励を飛ばし、
やっと2ヶ月が過ぎたのでした。

ふと気がつくと、エスカレーターを
使わず、階段をのぼっています。
お風呂からあがって、ストレッチをしたり、
歯磨きのあとに幾度かスクワットを
している自分がいます。

きっと祖母の「体操のコトダマ」が
私に乗り移ってくれたのでしょう。

新しい働き方、暮らし方には
自分で自分を健やかに保つ工夫が
欠かせません。

そのひとつとして私は、
無様な格好をベランダから世間に
晒しながら「ラジオ体操」を
今日も続けています。

  • ひきたよしあき プロフィール

    コラムニスト。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、読者である子どもたちとの文通も行っている。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)、「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)等。