コラム

Vol.55

by ひきたよしあき 2020.07.27

制約のコトダマ

スピーチの講習を受けたとき、
最初に練習したのは「自己紹介」でした。

「紹介の中に、できる限り数字を
入れてください」

と「制約」を課して語るように
指示されます。

「私は、1960年4月22日、
夕方の5時10分に、家族にとっては
2番目の男として生まれました」

と無理やり数字を入れます。
みんな苦し紛れ。その分、クラスは
笑いの渦に包まれます。

数字だけではありません。
「色」をたくさん入れて語ったり、
故事や四文字熟語を入れることもある。

やってみると、ありきたりに見えた
自己紹介に何通りもの表現方法がある
ことに気づくことができました。

こんな「制約」もありました。

「話の中に4秒の間を入れなさい」

はじめると4秒という時間の長さに
閉口します。日頃、自分はどれだけ
「間」をとらず、早口でしゃべっていた
ことか。
慣れてくると、「間」のあとに、
しっかりと息を吸えるようになります。
声が低くなり、言葉を選んで語れる
ようになっていきました。

スピーチがうまくなるコツは、
ふだんのしゃべりに数々の「制約」
を課していくこと。
これはスピーチだけでなく文章にも
応用できます。

例えば私は、「カタカナ英語」を
なるべく使わないという「制約」を
自らに課しています。

アセット、アジャイル、オーソライズ、
キャパシティ、マネタイズ、リソース、
コンプライアンス、フルコミット・・・

いくらでも思いつきますが、
果たしてこれらの単語は、読み手に
正確に伝わるでしょうか。
相手が知らないこともあれば、
職種によって微妙に意味が違うことも
あります。

できる限り多くの人に理解してもらえる
文章を書こうとするなら、この「制約」
は必要だと考えています。

子どもたちに作文を教えるときも、
「制約」を活用しています。

・一行目を会話文ではじめる。
・お母さんの立場になって書く。
・オノマトペを10個入れる。
・全部、うその話を書く。
・最後の文章を、
 「いつの間にかあたりは暗くなっていた」
 で終わる。
・「あ、空から○○が降ってきた!」
 で書きはじめる。

到底大人では思いつかない発想力に
毎回頭が下がります。

空から親子の豚が降ってきたり、
空から「私自身」が落ちてきたりします。
一行目の会話文が、
「盗んだものは、これだけか?」
だったり、
「もう三日間、ごはんを食べてないんです」
なんて書いてくる。

「制約」が、彼らの発想力に火をつけて、
自由に書くよりよほど面白い文章を
練らせるのです。

ある作家がこう言っていました。

「プロの作家とは、自分でしばり(=制約)を
課せられる人だ」

制約のコトダマをうまく活用する。
それが話すこと、書くことを上達させる
近道なのではないでしょうか。

  • ひきたよしあき プロフィール

    コラムニスト。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、読者である子どもたちとの文通も行っている。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)、「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)等。