コラム

Vol.47

by ひきたよしあき 2020.02.25

一部のコトダマ

子どもたちから、週に3、4通手紙が
届きます。
何度かやりとりしている子もいれば、
初めての子もいます。
小学校から文通を始めて、今では
高校生になった子もいます。

返信は常に原稿用紙一枚。
万年筆で書きます。
忙しいときや落ち込んでいるときは
非常に辛い作業です。
しかし、子どものいない私が、
彼らに教えたり、書いたりして暮らして
いるのですから、ありがたい勉強だと
思って続けています。

子どもの手紙の多くは、明るい話題では
ありません。
勉強や受験の話題も多いのですが、
ダントツに多いのは人間関係の悩みです。

「友だちに、うそつきと言われました」

その一言がショックだった。
その後、無視をされた。いつも一緒だった
のに先に帰ってしまった。休み時間に
話さなくなった。
きっと彼女は私に愛想を尽かしたに違いない。
大抵は、彼女との人間関係について延々と
続きます。長いときは、この手紙がシリーズ
になって送られてきて、幸か不幸か文章力が
上がってくる場合もあります。

そのほとんどが、妄想力。
「嫌われている」と決めた目で彼女を観察し、
小さな行動を見つけては、
「やっぱり嫌われている」と決めてかかる。

しかし、肝心なことが抜けています。

なぜ「うそつきと言われたのか」
どんな状況で、あなたがどんな言動をしたことに
よって、この言葉を返されたのか。
そのときの口調や、彼女が他に言った言葉などの
情報がストンと抜けている。

「うそつき」という言葉がショックで、
周辺の情報が消えてしまっているのです。

実は、SNSがコミュニケーションの中で
大きな位置を占めるようになってから、彼女の
ような悩みが増えています。

「あの人に『冷たいね』と書き込まれた」

「ひどいでしょ!『もう、話したくない!』って
送ってきたのよ」

そして、極めつけが、読んだのに返事をしない
「既読スルー」です。
ことここに及んで、 相手に対する負の妄想が
暴走する。

大人と話をしていても「ひとこと」がもとで
トラブルになることが多発している。

LINEやツィッターのように、短い文章で
ニュアンスを伝えるツールが増えるのと
正比例するかのように、小学生の女の子の
同じような悩みが蔓延しているようです。

一部を切り取って、それを全部と思う。

こうしたものの見方が、私たちの人間関係に
暗い影を落としているのではないでしょうか。

「沈黙は金」という言葉の価値が暴落し、
誰も彼もが、高速で大量の「断片言葉」を発する。
何をいわんとしているのかを考えるより、
聞こえてきた一言に反応して怒ったり、悲しんだり
する。

一部のコトダマが、全体の姿をゆがめてしまう。

私は、小学生たちに、「ひとことに悩むことを
停止しよう」と書き送ります。
負の暴走を止めるには、下手なアドバイスより
その妄想を「停止」して、空を見上げ、
風呂に入り、おいしいものを食べて、早く寝ようと
書いた方がずっと効果があるからです。

もちろん、これでダメな子もたくさんいます。
しかし、しばらくして「うそつき」と言われた子から

「集中力がなくて困っている」

なんて次の悩みが送られてくると、
「一部のコトダマから解放されたんだな」と思い、
ほっとしています。

  • ひきたよしあき プロフィール

    コラムニスト。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、読者である子どもたちとの文通も行っている。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)、「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)等。