コラム

Vol.48

by ひきたよしあき 2020.03.09

バイト語のコトダマ

消費税が10%に上がる際に
「軽減税率制度」が導入されました。

店内で飲食するものは標準税率10%、
持ち帰りのものは軽減税率8%と
適用される税率が変わりました。

この制度が導入されてから、
お店でこんな言葉を耳にするように
なりました。

「店内でお召しあがりですか?」

聞き慣れてしまったので、正しいように
感じます。でもこれは、

「召しあがる」という尊敬語に
「お」をつけて二重敬語。

正しく言うなら、

「店内で召しあがりますか?」

となります。

こういうことが気になりだすと、
止まらなくなります。

「こちら、コーヒーになります」

・・・え? 何かがコーヒーに
変化したの?

「なります」の「なる」は変化を
示す動詞です。

「この春、大学生になります」

というような時に使うもので、

「コーヒーになります」とは言いません。
正確には、

「コーヒーでございます」

です。

重箱の隅を突くようで申し訳ないですが、
こうした「バイト語」が、ますます増えて
いるように感じられます。

そんな話を、大学生にすると、

「敬語をちゃんと習ってない」

「そもそも敬語をしゃべるような人と
話したことがない」

「ちゃんと通じているんだから
いいじゃないですか」

という言葉が速攻で戻ってくる。

「うるさいオヤジだなぁ」という気持ちが
表情にでています。

しかし、私はこうした「バイト語」をすべて
否定するわけではありません。

言葉は時代によって変わっていくもの。
使う人が増えていけば、それが正しい日本語に
なるものです。

またデジタルテクノロジーの進化によって
直接会わなくてもコミュニケーションがとれます。
動画、スタンプ、絵文字と表現方法が多岐にわたる
ようになった今、敬語の価値を理解してもらうのは
難しいことでしょう。

また彼らの多くは、「誰もが平等」という教育を
受けています。厳しい部活動でもやっていない限り、
敬語を使うことの少ない生活を送っているのです。

と、理解をしめすと、今度は、もうすぐ30歳に
なろうという若者がこう言いました。

「おれは、そろそろ真剣に、脱皮したいっす。
下の子が、うちらが使っていた頃よりも
『ばか丁寧なバイト語』を使うのを聞くと
イラッとくるし、上からは、『おまえの言い方に
イラッとくる』っていわれるし、ちょっと
やばいかなって感じっす」

「タメ語」なんだか「敬語」なんだかわからない。
しかし、悩んでいることは確かに伝わりました。

どうやら、上下に人間関係が生じる世代になると、

「イラッとしない、されない日本語探し」

が始まるようです。

彼らは異口同音にこう言います。

「私は、バイトのときにいっしょだった
口うるさいおばさんが、言葉の先生なんです。
あの人がいなかったら、バイト語よりも
もっとひどい言葉しか喋れませんでしたから」

今の若者の多くは、バイト先にいる
先輩から言葉を習っている。
それを「うざい」と思いながらも、社会にでて
から、「あの人のおかげ」と恩を感じている。

そんな若者が実に多くいることに驚きました。

バイト語のコトダマ。

それは若い世代が、社会に入るために習う
「エントリー・コミュニケーション・ツール」
になっている。

そのことを理解した上で、彼ら彼女らが
美しい日本語を使えるようになるために
私も力を貸してあげたいと考えています。

  • ひきたよしあき プロフィール

    博報堂クリエイティブプロデューサー/スピーチライター
    早稲田大学卒業後、博報堂に入社。クリエイティブ局で、
    CMプランナー、クリエイティブ・ディレクターを経て現職。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、
    読者である子どもたちとの文通も行っている。
    facebookには年間約1000本のコラムを投稿し、幅広い世代から
    圧倒的な支持を得ている。
    2018年4月より、博報堂教育財団コミュニケーションコンサルタントとして
    の活動もスタート。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)、
    「博報堂スピーチライターが教える口下手のままでも伝わるプロの話し方」
    (かんき出版)、「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』
    『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)等。