コラム

Vol.66

by ひきたよしあき 2020.12.24

「一(イチ)」のコトダマ

年齢を重ねていくうちに、
新しい年を迎える気持ちに
変化が起きました。

子どもの頃は、

「今年は9歳から10歳になる年。
4年生になるんだ!」

と年齢を重ねるのが嬉しかった。

成年期を迎えると、

「もう22歳だ。子どもじゃないんだ」

と気を引き締めたりもしました。

しかし、50歳を超えたあたりから
新年がきても、年齢を意識することが
減りました。

それよりも、

「新しい年を、また一から始められる」

喜びを強く感じるようになりました。

「いくつになっても
新年から出直すことができる」

こう考えるようになってから、
以前にもまして、お正月がありがたい
ものになっていったのです。

千利休に

「稽古とは一より習い十を知り、十より
かえるもとのその一」

という言葉があります。

達人は、知恵や技術を身につけたのち、
再びはじめに戻り、一からやり直す
という意味。

もちろん、一からやり直すといっても
身につけたものがなくなるわけでは
ありません。
技術や知恵を身につけた上で、初心に帰り、
コツコツと努力していく。

千利休はこうした心持ちが大切だと
言っているのです。

19歳で身につけた知恵や技術、
たくましくなった心を抱いて、
20歳でまた新しく一から出直す。
この繰り返しによって人生を深めていく。

若い頃にはできなかった「初心に帰る」
大切さを今になって噛み締めています。

この感覚は、日本人が特に強いのかも
しれません。

地震が頻繁に起こる我が国では、
一から出直す歴史の連続です。
それを象徴するかのように伊勢神宮は
20年に一度、「式年遷宮」を行い
神殿を新しくします。
そこから生まれた「常若(とこわか)」の
思想は、お正月に初心に帰る気持ちと
どこかつながっているように思えます。

2020年。コロナ禍の中で、
これまで味わったことのない経験を
された方もたくさんいらしたはずです。

その経験を糧にして、2021年を
再び一から始めていく。
「一(イチ)」のコトダマの力で、
初心に帰って自分を始める。

そんな気持ちを胸に、新しい年を
迎えようと思います。

一年間、ご愛読ありがとうざいました。
来年も、何卒よろしくお願いいたします。

  • ひきたよしあき プロフィール

    コラムニスト。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、読者である子どもたちとの文通も行っている。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)、「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)等。