コラム

Vol.67

by ひきたよしあき 2021.01.15

「書き癖」のコトダマ
「口癖」のコトダマ

子どもの頃、江戸川乱歩の「怪人二十面相」に
熱中していました。

「青銅の魔人」「虎の牙」「怪奇四十面相」
「サーカスの怪人」・・・

本好きな友だちと
「別の本を買って、交換して読もうね」
と約束する。
お小遣いをもらって手に入れた日は、
どちらかの家に行き、しゃべることもなく、
寝そべったままで新しい本を読んでいました。

こんな日々が、半年くらい続いた頃
友だちの会話に、

「あぁ、なんだか」

という言葉が増えました。
彼曰く、

「怪人二十面相シリーズは、しょっちゅう
『あぁ、なんだか』がでてくる」

というのです。
意識して読み返すと、確かに多い。
数えてみたわけではないけれど、
「あぁ、なんだか」は、やけに目につきました。
きっと江戸川乱歩の書き癖なのでしょう。

村上春樹の小説を読むと、
「ささやかな」という言葉がよくでてくる。
丸谷才一は、「きれいに」をよく使う。

表現したい気持ちや雰囲気にぴたりとくる
「書き癖」が各々にあるのでしょう。
スピーチライターの仕事をしていると
「口癖」も気になります。

とある会社の社長さんは「つまり」が口癖です。
この言葉を多発する背景には、話をどんどん広げて
しまう彼のしゃべり癖がある。
なんとか話をまとめようと、「つまり」と
何度も使ってしまうのでしょう。

「確かに」を連発する人もいる。

「確かにおっしゃる通りですね」

と一度相手を肯定的に受け止める。
しかし、そこで終わらず、

「しかし、別の視点からみれば」

と、すぐに否定や批判に入っていく。
この場合の「確かに」は、真正面から
相手を否定することをしないビジネスの
処世術のようなもの。あなどれません。

「逆に言えば」と必ず言って、

「自分はみんなとは違う視点をもっている」

とアピールしたい人もいました。
「何が逆なのか」ちっともわからない。
意味不明な「逆に言えば」を理解するのに
苦しむことも多々ありました。

便利だからつい使ってしまう書き癖、口癖。
ここにはどうやらその人の本音が隠れているようです。

私にも「口癖」がありました。
「やっぱり」「やはり」という副詞です。

自分の講演を文章に起こしてもらったところ、
「やっぱり」のオンパレード。
それが講演の主旨をわかりにくくし、結論を
見えなくしていました。

「やっぱり」「やはり」は、以前と比べて変わりが
ないこと。色々考えてもはじめの結論に戻るときに
使う言葉。
長々としゃべっている割には、原点に立ち返ろうと
するばかりで新しい意見を語っていない。

「思っている以上に、保守的な男だなぁ」

と思ったものです。

人にはいつの間にか身についた「書き癖」や
「口癖」があります。
小さな一言だけれど、幾度も顔をだす言葉は
その人の視点、考え方、性格をよく表します。

あなたも自分の
「書き癖のコトダマ」「口癖のコトダマ」を
探してみませんか。
自分の書いた文章、語っている動画を、
「書き癖」「口癖」視点で眺めてみると
簡単に見つかります。

その言葉に、あなたの個性や弱点が
詰まっているはずです。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。