Research reporting Sessions

第15回、第16回研究報告会(2022年2月)

2022年2月11日(金・祝)10:00~13:30
開催方法:オンライン(Zoom)

真冬の寒さの残る2月11日(金・祝)、第15回、第16回、「日本研究フェローシップ」研究報告会を開催しました。残念ながら、2021年9月の交流会に続いてオンラインでの開催になりましたが、来日延期中の招聘者を含む関係者40名弱の方に参加いただき、短期前期招聘者6名が6か月間にわたる研究の成果を報告しました。約3時間半という長時間のオンライン報告会でしたが、研究発表と質疑応答、審査員による講評まで、とても充実した有意義な時間となりました。

研究報告

 

 今回は「日本語・日本語教育研究」の分野で3名、「日本文学・日本文化研究」の分野で3名の招聘研究者が、1人あたり15分間の研究報告を行いました。滞在期間はコロナ禍の影響も大きく、予定していた調査などを変更・断念せざるを得ないケースも少なくなかったということですが、さまざまな制約の中でも着実に研究を進められ、成果を上げていることが伝わってきました(研究のまとめや今後の展望等の要約を以下に掲載します)。

 各研究者の発表の後には、受け入れ機関の担当教員からのコメントと質疑応答があり、それぞれの研究内容について活発な質問や議論が交わされました。

 

<日本語・日本語教育研究>

 

1.石原 俊一 
オーストラリア国立大学・准教授(オーストラリア)
『日本語の書き言葉に見られる個人性の言語学的研究:テキストメッセージを中心に』

「今回、日本での法科学的著者認識の遅れについて、また先行研究における日本語での著者認識への特徴量の有効性などを再認識できました。また、どの程度、著者認識が法科学の分野で有効であるかの知見も得ることができました。今後の展望としては、法科学的によりふさわしいベイズの定理・尤度比を用いた日本語での法科学的研究を進めたいと思っています。さらに、そのための基礎研究や実際の運用に向けての研究もあるので、帰国後もやることはたくさんあるなと感じています」

2.出丸 香
オレゴン大学・教授(アメリカ)
『日本語における外国語なまりの要因と影響』

「日本での滞在研究で、この研究の重要な基盤が完成したと思っています。知覚実験のベースプログラムを構築し、話者情報の与え方で、聞き手の理解度に差はないが、なまり等の主観的知覚には差が出ることがわかりました。今後は、話者の外見の違いでなまりの知覚が変わるのかなども考察します。将来的には、職場などの具体的な場面で、外国語なまりのマイナスな影響を減らす方法を探っていきたいです」

3.ウォーカー 泉
シンガポール国立大学 語学教育研究センター・副所長(准教授)(シンガポール)
『高度外国人材育成における日本語教育の意義と課題(日本に就職したシンガポール人日本語学習者 のライフストーリー分析から)』

「日本で働く6人の卒業生に各3回の半構造化インタビューを行い、6人のTEM(複線径路・等至性モデル)図を統合し、日本語の修得を促進/阻害する要因などを分析しました。卒業生には私の教え子もおり、対面で深く話をできたことも良かったと感じています。この研究により、就労後までの日本語習得のプロセス、日本語教育の意義と課題など、多くの知見を得ることができました。今後はこの成果を丁寧にまとめ、日本語教育をはじめ、企業や行政など幅広い分野に還元していきたいと考えています」

 

<日本文学・日本文化研究>

 

4.吉田 安岐
パリ大学/イナルコ、フランス東アジア研究所・講師(フランス)
『60 年代、70 年代初期における日本の作家とアジア・アフリカの作家との文学的交流、又同時期日本に おけるアジア・アフリカ文学の受容』

「日本滞在中は、アジア・アフリカ作家会議関連の文献調査を中心に進めました。アジア・アフリカ作家会議への日本作家の参加状況や、日本作家の国際会議での役割、アジア・アフリカ文学の翻訳状況などを調査しました。60年代、70年代のアジア・アフリカ作品はフランスでも興味をもたれている分野なので、今後、パリ大学の研究グループや国際学会で発表する予定です。また日本文学界への影響や日本作家の役割などは、さらに調査・検討をしていきたいです」

5.ポールトン マーク コーディ
ヴィクトリア大学・名誉教授(カナダ)
『都市及び地方演劇祭の社会的・文化的な役割』

「2020年からコロナのパンデミックにより、多くの演劇祭が中止・延期になり、私も研究課題の変更を余儀なくされました。舞台芸術のオンライン化も急速に進みましたが、舞台芸術は配信や記録には代えられません。国際交流がなくなり、日本は鎖国ともいえる状況で、これからの芸術祭がどう変わっていくのか注視しています。日本のアートプロデューサーが世界演劇祭のディレクターになるなど新たな動きもあり、今後インタビューや学会発表を予定しています」

6.吳 偉明
香港中文大学・教授(香港)
『近世における中国民俗宗教の現地化』
※来日延期中のため、在住国で研究されました。

「今回は、新型コロナのために日本滞在研究はできませんでしたが、近世日本における漢神の現地化や中国民間信仰の特徴などについての文献調査を行いました。従来、江戸時代に中国宗教が広がったと認識されていますが、その本質は中国民間信仰が日本で現地化され、日本の民間伝統と宗教システムに組み込まれていったということが本研究で明らかになりました。今後は、日本を訪問してのフィールドワークや英語と日本語での学会発表、論文出版などを予定しています」

 

 

審査員による講評

 最後に、オンラインで参加された6人の審査員の先生方から、講評をいただきました。

 まず、井上優審査員長から「6か月という短期間で、またコロナの制約がある中で、今回の招聘研究は日本語教育や日本文化の研究者の交流という意味でとても意義深いものだった。それぞれの研究者が次の一歩を踏み出すために確実な手応えを得られたのではないかと感じ、嬉しく思っている」との言葉がありました。

 続いて「日本語を中心に置きつつ、応用の広がりがりを見せていただき、改めて、目を開かれる思いでした(井島正博先生)」「コロナの影響で日本研究の研究者が離れてしまう可能性も指摘されているので、ぜひ皆さんが日本研究を盛り立て、若手研究者にも良い影響を与えていただきたい(小柳かおる先生)」「発表を伺って、制約のために代替で始まったことが、代替ではない意味や価値を生み出していたことにたいへん感銘を受けた(田中ゆかり先生)」「今回は発表会後の懇親会で先生方とお話をできず残念だが、たくさん勉強をさせていただき感謝している」(山中玲子先生)」「コロナ禍、出来ないことが多い中で、何をできるか工夫されていた(古川隆久先生)」といった言葉がありました。

 今後の研究者同士の交流と研究の発展を願いながら、オンライン研究報告会は閉会しました。

 

※各研究者の発表等を事務局でまとめました。このため、誤りの責任は全て事務局にあります。

 

Research reporting Sessions

研究報告会レポート

中間報告・研究終了後の「研究報告会」や、来日直後に行われる「交流会」の模様をレポートしました。