Research reporting Sessions

第14回交流会(2019年10月)

2019年10月6日(日)10:00~
東京コンファレンスセンター・品川

残暑から一転、秋の気配が感じられるようになった10月6日(日)、第14回交流会を開催しました。9月に来日した招聘研究者10名が出席され、それぞれ簡単な自己紹介、主な研究内容、各国の日本語・日本文化研究の現状などについてお話をしていただきました。

第14回招聘研究者

 

第14回招聘研究者の方々(長期8名、短期・前期2名)のプロフィールをご紹介します(姓50音順・敬称略)。

 

<日本語・日本語教育研究>

 

ANDREEV Anton Stoytchev

(アンドレエフ アントン ストイチェフ)

「聖クリメント・オフリドスキー」ソフィア大学・准教授(ブルガリア)

『日本語とブルガリア語の音韻・音声に関する対照研究』

 

「今回私がやろうとしている研究は、日本語とブルガリア語の音韻・音声の比較ですが、その研究を音韻研究の実績の豊富な国立国語研究所で、その分野のレジェンドである窪薗先生の指導のもとで進めるというのが、本当に楽しみで夢のようです。ふだん学生に教える立場ですが、いい意味で学生に戻ったような新鮮な気持ちです。今回は日本人の妻と14歳の息子も日本に長期滞在するので、家族もそれぞれに刺激を受けています」

 

 

王 冲

(オウ チュウ)

大連理工大学外国語学院・教授(中国)

『第二言語習得における語意カテゴリーの再構築に関する研究- 産出知識と理解知識の観点から』

 

「9月に来日した直後は一人で研究していましたが、10月からはお茶の水女子大学の授業が始まり、午前中は修士、午後は森山先生のゼミに出席し、急に刺激的な生活が始まりました。ゼミは学生も多いうえ、私と近い分野の研究者もいて、そうした人たちと勉強会を立ち上げてお互いに刺激を与え合うようなことができたらと考え始めています。せっかくの機会なので、同時期に来日した招聘研究者の方々とも交流を広げたいですね」

 

 

蘇 克保

(ソ コクホ)

東呉大学日本語文学科・准教授兼学科長(台湾)

『台湾人日本語学習者発音指導について- 日本語母語話者の聴覚許容度を中心に-』

 

「今回の研究では日本にしかない資源=「日本人の耳」を借りたいです。つまり台湾人がしゃべる日本語を日本人が聞いたらどうなのか、それを調べたいです。台湾人は音声教育を重視しますが、あまり厳しすぎると、学生は発音を気にして話せなくなるので、今回の研究でその方向性を少し変えられればと思います。それから今の住居は東京都立川市の昭和記念公園の真ん前で、裏の窓を開けるとなんと富士山が見えます。こんな環境に住めるのも幸せです」

 

 

バトラー 後藤 裕子

(バトラーゴトウ ユウコ)

ペンシルバニア大学教育大学院・教授(アメリカ)

『テクノロジー進化時代に必要な言語能力』

 

「私はテクノロジーに興味があり、今回の滞在研究では早稲田大学の李先生にご指導いただきますが、李先生は最先端のことも含め本当にさまざまなことをご存じで、人的ネットワークも充実されているので、李先生のもとで学習の機会を与えていただいたことを本当にうれしく思います。また、海外の学校教育でのテクノロジー使用と子どもたちの言語能力の変化を書籍に著すなどして、日本での議論につなげられれば、とも考えています」

 

 

YEOH Lee Su

(ヨー リースー)

マレーシア科学大学・日本語専任講師(マレーシア)

『マレーシアの高等教育機関における日本語学習者向けのビジネス日本語教材作成』

 

「マレーシアの日本語教育は、環境は恵まれていますが、リソースが少ないです。そこで日本に来た今は、いろいろな方々にお会いしています。先週も日本語教科書の出版社の社長にお会いして本社などのほか、アジア文化会館の日本語学校にも連れていっていただき、日本で就職を希望する海外の学生のための短期の研修コースがあると知りました。今回日本でお会いした方々は今後も長く一緒に仕事ができそうで、うれしいですね」

 

<日本文学・日本文化研究>

 

AVENELL Simon Andrew

(アベネル サイモン アンドリュー)

オーストラリア国立大学 アジア太平洋カレッジ文化・歴史・言語学科・准教授、副学部長(オーストラリア)

『戦後日本の市民社会とアジア:草の根での繋がりの構築』

 

「私の専門は日本の戦後史ですが、今回は日本にしかない一次、二次資料を探し、時間をかけて読むのを楽しみにしています。横浜市など各地の自治体の資料館にも貴重な資料が残っているので、それを丁寧にたどりたいですね。オーストラリアを離れて研究に打ち込める環境には、本当に感謝しています。また今は神奈川県藤沢市に住んでいて、毎朝江の島まで走っています。海岸線に出ると晴れた日は富士山がきれいに見えるので、それも楽しみの一つです」

 

 

鋳物 美佳

(イモノ ミカ)

ストラスブール大学・専任講師(フランス)

『型の稽古における意志の経験』

 

「8月まではフランスの大学で授業をしていたので、そういう義務がなく自由に研究ができるのは本当に素晴らしい機会です。 9月に来日して1か月が経ちましたが、学会や日文研での研究会に参加するなど、一生の中でこれほど多くの人に会ったことはないというぐらい、たくさんの人に会って交流しています。10月から本格的に始める稽古に関するインタビュー研究では、理論の研究からは想像できないような個別の話を、新鮮な気持ちで聞きたいです」

 

 

WILLIAMS Nicholas Morrow

(ウイリアムズ ニコラス モロー)

香港大学 中文学院・准教授(香港)

『空海の≪三教指帰≫の中の漢文美学と悟りへの道』

 

「私の研究テーマは空海です。海外で研究しているときは空海にまつわるものに直接触れることはできませんでしたが、日本の京都に滞在していると、空海が創設した寺院や、空海に関係する平安時代の文化が残る場所に行くこともできるので、それがいいですね。これまでも京都に来たことはありましたが、長期で滞在するのは初めてですので、これから研究を兼ねていろいろなところへ行きたいですし、京都の美しい紅葉も楽しみです」

 

 

金 寶賢

(キム ボヒョン)

高麗大学校グローバル日本研究院・研究教授(韓国)

『植民地期「朝鮮半島の歌壇」と「日本の中央歌壇」の繋がり研究- 海を越えてきた歌人たち-』

 

「日本に来て、現代の日本人が俳句などの伝統詩に気軽に親しんでいることに驚きました。私は日本で滞在研究をするのは初めてなので、日本語もこれからもっと頑張りたいです。今は立命館大学の図書館にいることが多いですが、図書館はとてもきれいで、資料の管理の状態もいいです。1900年代の貴重な資料を私だけで独占している感じです。これからそうした資料をよく読み、意味のある研究成果を世に発信していきたいです」

 

 

佐藤 將之

(サトウ マサユキ)

国立台湾大学哲学系・教授(台湾)

『明治時期日本における「東洋哲学」の誕生』

 

「私の研究には三つのテーマがあります。①日本の国際化、②東洋哲学(中国古代哲学)という研究分野の消滅を食い止めること、そして③欧米の研究者がギリシャ、ローマの古典を学ぶように、アジアの研究者が古典を学べるようにすることです。そのために各国の研究者と交流を続けています。先日もこの滞在研究のことをイスラエル人の友人に話したところ、世界的な古都・京都で1年間過ごせるなんて歴史研究者にとって“地上のヘブン”だと言われました」

 

 

招聘研究者の自己紹介の後は、研究者を受け入れる関係者の方々から、自己紹介等があり、受入担当教員からは「ともに刺激を与え合いながら研究できることを楽しみにしている」と期待の声が寄せられました。

さらに出席された3 名の審査委員の先生方から、「本フェローシップは半年後、1年後に滞在研究の成果をお聞きする機会がある。ぜひ具体的にどういうことをしたのか、発表してほしい(井島正博先生)」「1年(半年)は長いようですぐに過ぎてしまう。日本で充実した生活を送られ、研究の成果が上がること願っている(小柳かおる先生)」「たくさんの出願者の中から選ばれた研究者の方々にお会いできてうれしい。日本でますます研究を深めてほしい(古川隆久先生)」といった言葉が贈られました。 その後は昼食を兼ね、会場の一角で立食形式の懇親会が行われました。各国の招聘研究者同士で、あるいは研究者と受入担当教員、受入機関の方々、審査委員の先生方が入り交り、とても活発に情報交換をされていました。最後に、第14回招聘研究者を代表して蘇先生にご挨拶をいただき、和やかな雰囲気の中で閉会となりました。

 

 

※第14回より、博報日本研究フェローシップの関係者交流イベントの名称を「懇談会・懇親会」から「交流会」へ変更しました。

 

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研究報告会レポート

中間報告・研究終了後の「研究報告会」や、来日直後に行われる「交流会」の模様をレポートしました。