コラム

Vol.51

by ひきたよしあき 2020.04.20

メロスのコトダマ

太宰治「走れメロス」を題材に、
子どもたちに本の読み方をよく教えます。

冒頭の一文は、

「メロスは激怒した」

最後の文章は、

「勇者は、ひどく赤面した」

始めも終わりも、顔が赤くなります。

「このお話は、怒って顔を真っ赤に
することに始まって、恥ずかしくて
顔を真っ赤にするお話なんだ。
途中で、メロスの顔が何色になるか。
最後はどうして、赤面したのか。
考えながら読んでみよう」

というと、子どもたちは最初と最後の
ページを見比べながら本を読み始めます。

「先生!妹の結婚式のところでも
メロスは赤い顔をしています。だって
お酒を飲んでるから」

なるほど、いい発見です。

「次の朝、寝坊したところでは、
真っ青ですね」

「橋が壊れているところも、真っ青」

などと、言いながらメロスの心情を
顔色で示していきます。
「でも、最後はなんで、赤面したのかな?」

と聞くと、

「まっ裸だから!」
「少女に裸を見られたから!」

という声。

「じゃ、なんで太宰治は、最後に
赤面させてお話を終わらせたのだろう」

と尋ねると、クラスは静まります。
作家がなんで、そんなシーンを書いたか
なんて考えたことがありません。

しばらくすると、手があがる。

「きっと、自分が裸だってことも気づかない
くらい一生懸命走ったということを書きた
かったんだと思います」

「すばらしい!確かに日が沈みかけそうに
なってからメロスは必死に走ってるよね」

「先生、そうかなぁ。もっと前から
気づいてない気がします。はじめから
怒ってるし。怒ると、そのことしか考え
られなくなります」

とさらに深い意見がでてくる。

このクラスでは、作品が
始まって「激怒した」ときから
最後に「赤面」するまで、メロスは
周囲のことに気づかなかった。だから
最後にそれに気づかせるために、
わざわざ「すっ裸」のシーンを
入れた、という結論に達したのです。

私は、見事な結論に最大限の賛辞を
送りました。
同時に、

「今は、メロスの顔色を中心に
読んだけど、今度は王様の顔色で
気にしながら読んでごらん。
一体何色だろう。その色はどこで
変わったんだろう。なぜ、変わった
んだろう」

すると授業の終わり際にもかからず、

「黒!」「茶色!」「鉄みたいな色!」

と声があがります。

もう大丈夫。君たちは、本を読むコツ
を覚えた。

1 最初と最後の一文をじっくり読む。
2 主人公の心情の変化を読む。
3 主役以外の心も読む。

これができるようになれば、
太宰治が伝えようとした
「メロスのコトダマ」は理解できる。

そしてこの読み方は「走れメロス」
のみならず、あらゆる物語に
応用できるものなのです。

よい小説は、どこから読んでも
学びがあります。
何度読んでも発見があります。

さぁ、読書の時間はたっぷりある。
あなたも、「メロスのコトダマ」に
触れてみませんか?

  • ひきたよしあき プロフィール

    コラムニスト。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、読者である子どもたちとの文通も行っている。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)、「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)等。