コラム

Vol.01

by ひきたよしあき 2018.04.02

手紙の中のコトダマたちへ

「朝日小学生新聞」にコラムを書き始めて
4年目を迎えます。
「大勢の中のあなたへ」「机の前に貼る一行」と
題された550字前後の言葉に杉浦範茂さんの
イラストを添えて、週に一度、書き送っています。

形式は、子ども一人ひとりに向けた手紙です。
「足長おじさん」が、主人公ジュディに送った
手紙のように、彼らの悩みや不安、自立心や向上心に
応える形で書いていく。
おかげさまで、大変多くの子どもたちや
保護者に支持されて、
全国の小中学校で講演する日々を送っています。

「必ず返事を書くからね」とコラムの中に
書いているので、実際に多くの子どもから手紙が
送られてきます。
多い時には週に90通。
平均でも7、8通がポストに届いています。

図書館に「ひきたさんポスト」という箱をおいて、
学校単位で送られてくることもあります。
その1通1通を読み、
万年筆で原稿用紙1枚分の返事を書く。
このやりとりを通して私は、親にも先生にも言えない
子どもたちの「本当の声」を聞いているのです。

小6の少女からの手紙でした。大変きれいな字で、
生活が語られています。

バレーボールのキャプテンに選ばれて、
人間関係に悩んでいること。
日に日に、母親の声がうるさく聞こえるように
なってきたこと。
商社に勤めていてなかなか会えないお父さんが
帰ってきてくれて、パーティをひらいた日のこと。

便せん3枚ほどに書かれた手紙は、短編小説のように
見事な描写です。
こちらもつい熱が入って書き進むうちに、
文通状態になってきました。
本当の「足長おじさん」になった気分でした。

そのやりとりを見ていた編集者の人が、
「彼女の手紙を紙面で紹介しよう」と言って、
承諾の電話をご自宅にかけました。
でたのは、お母さんでした。

「いつも申し訳ございません。
絶対私には見せないで送ってしまうもので。
うちは、母子家庭のものですから、
しつけが行き届いてなくて。
何か失礼なことを書いてやしないと
いつも心配しています」

・・・母子家庭。

手紙に書かれている家族の設定、
お父さんの描写や言葉は、すべて彼女の中で
創り上げられた世界だったのです。
私はこれを聞いて、一編が見事な物語に
仕上がっているわけを知ったのでした。

しかし、これは「嘘」ではありません。
彼女の「言葉」が練り上げた
もうひとつの「現実」です。

私は、手紙を再読して、
その文字の、文章の欠けらから
少女の「コトダマ(言霊)」が発せられているように
思えたのです。
その後、卒業するまで彼女は、手紙を書き続け、
卒業と同時に文通の終了を告げてきました。
物語を見事に終えたのです。

子どもの手紙には、「コトダマ」で綴られています。
「ごはんを早く食べられない」
「友だちを裏切ってしまった」
「私のせいでチームが負けた」
「行きたくない中学に行かされる」・・・
彼らの悩みに応えながら、私自身が学び、
成長させてもらったことを、今日から書いていきます。

作家の開高健さんは、こう言いました。
「教えた者に教えられるのが、最高の教育である」

と。このコラムは、多くの子どもたちに
教えられたことのささやかな恩返しに
していくつもりです。

ぜひ、ご期待ください。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。