コラム

Vol.02

by ひきたよしあき 2018.04.16

変心するコトダマたち

小学生からの手紙を読み続けていると、
大まかな傾向がわかります。

小学校3年生の書いてくる手紙は、

「2年生のときに3人だった友だちが、
3年生になったら5人になりました」

と友だちの数の増減を報告する内容が
多く見受けられます。
なぜ気があうのか。
どこが好きなのかというところまで
言及してくる子は多くありません。

それが4年生になると、突然変わります。
10歳です。昔で言えば、「八つ、九つ」と
数えていたところから「とう」と「つ」
がつかなくなる。江戸時代は奉公に出す
この年次を「つ離れ」と呼んでいました。

「去年までは、人前で発表するのが
平気だったのに、今年になったら
とても怖いです」

「みんなに否定されるのが怖くて
人の前で話せません」

「先生は私が何かいうと怖い顔をします」

と対面関係についての話が増える。
中でも、「人からどう見られるのか」が、
一大関心事になってきます。

明らかに自我の目覚めがあります。
心の中に「もう一人の自分」が生まれて、

「そんなこと言って嫌われないか?」
「みんながジロジロ見ているぞ」

なんて囁くのです。

場数を踏める子は何なく乗り切れます。
しかし、人から笑われないようにと
完璧をめざす子が、自我に足首を
掴まれて身動きできないように
なりがちです。

小5になると、ここに
「理想の自分」が紛れ込んできます。

早く寝ようと思っていても寝られない。
そこに親の

「いつまで起きているの!」

なんて怒りの声が飛んでくると、
イラとする。

「今、やろうと思っていたのに!」

という反論が出て、親の言うことに
従いたくないばかりに、逆に夜更かしを
してしまう。

本人は、ゲームをやめたいと思って
いるのに、それを親に言われると
ますますのめり込んでしまう。
天邪鬼になるのは、この頃です。

小6になると、少し社会性を
帯びてきます。

受験をする、しないによって
クラスでの立ち位置が変わる。
今の習い事を中学でも続けられるか
どうか不安になる。
友だちとの複雑な人間関係が
生まれるのもこの時期です。

これは3年間、子どもたちからの
手紙を読んで私が感じたことです。
男女の差は多少ありますが、
地域や学校による差はほとんど
ありません。

子どもの心身の変化は恐ろしく
早い。半年前の手紙と比べてみると
字も考え方も、しっかりしてきます。

悩みが多方面に広がり、
やがて忍び込んでくる「大人」
という異物への対応にとまどう
ようになるのです。

親でも学校の先生でもない私は、

「半年前はもっと素直だったのに」

などと過去と比べることができません。

今、そこにある一枚の手紙に
書かれたコトダマだけを見る。
そこに綴られたことのみに応える
返事しか書けません。

否、むしろこれでいいと思う。
今、この瞬間に子どもが抱えている
悩みをいっしょに考える。
それこそが、第3の立場に与えられた
役割でしょう。

成長するたびに、
バランスをくずして危なっかしい
心持ちになる子どもたち。
それを支える手は、様々で
いいと思う。

変身ならぬ「変心」していく
子どもたちの今を見て、
力になれたらいいなぁと考えています。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。