児童教育実践に
ついての研究助成

研究紹介ファイル
No.30 福島 耕平氏

北海道教育大学 大学院教育学研究科高度教職実践専攻 准教授

デジタルツールを活用し児童の書く力を伸ばす実践的研究を継続
現場の困り感の改善策が、研究の原点です

北海道教育大学 大学院教育学研究科高度教職実践専攻 准教授 福島 耕平氏

福島さんは2000年から17年間にわたり、小学校教員として教育現場に在籍。情報内地留学*1などを経験しながら研究者へと軸足を移し、現在は教職大学院で学生や現職教員への指導に携わっている。研究助成には長期継続を含めて4回採択され、ICTを活用した小学校児童の「書く力」の向上を目的とする実践的研究に取り組み続けてきた。

この記事では福島さんに4つの研究を総括的に振り返ってもらいながら、当時の問題意識や背景、特にGIGAスクール構想(Global and Innovation Gateway for All)*2が推進され始めた前後におけるICT教育実践の変容についてもうかがってみた。

まず、論理的な文章力の育成をめざしたきっかけは何だったのだろう。

「担任を持っている時に、作文が書けない子どもたちをどう指導すればいいのか、と考えたのが研究への第一歩です。書く量や質というより、書いたものを直さない、書きっぱなしで推敲する力がつかない点が一番大きな課題でした。推敲力を養う手立ては、今も意識している課題のひとつです。」

当時のPISA調査では日本の生徒が「自由記述(論述)」を苦手としている実態が明らかになっており、小学生も「事実」と「意見」の書き分けや、文章の構成を考えながら論理的な文章を書く力が充分に鍛えられていない現状があったという。

「本来は教師が添削して児童が書き直す、『書く・添削・改善』サイクルを繰り返すことで書く力は鍛えられていくのですが、ひとりの担任教員が30人を超える受け持ちの児童全員に対して、日常的に充分な添削指導をする時間的余裕がないのも現状でした。」

また、全国学力・学習状況調査の質問紙調査では、文章を書くこと自体に苦手意識を持っている児童が多いことが明らかにされていたそうだ。

「子どもたちは原稿用紙に作文を書いていたので、文章の構成を添削されると、消しゴムで指摘箇所を消して入れ替えるか、最初から書き直すしかない。何度も消しているうちに紙がビリっと破れて、"もうっ!!"と嫌になる、なんて光景も授業中によく見られましたね。」

子どもたちにとって添削された文章を書き直す活動は、学習意欲をかきたてられるものではなかった。そこで福島さんはデジタルツールを使えば文章の改善が格段にやりやすくなる点に着目し、児童が忌避感を抱くことなく論理的な文章を書く訓練ができる専用アプリ「ロンリー」*3開発に着手したという。

*1 現職教員が職場を離れて半年から1年、大学や研究機関で情報教育やICT活用に関する高度な知識・スキルを研究、研修する制度。特に学校現場ではICT担当教員のスキル向上、授業改善、デジタル活用の推進を目的に実施されている。
*2 2019年に文部科学省が打ち出した、児童・生徒ひとり1台の端末と高速通信ネットワークを学校に整備し「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一体的に推進するICT教育改革。

開発アプリ「ロンリー」は国語だけでなく理科や社会の授業にも活用

ロンリーの主な特徴は、
1:論理的文章の型を選べる
2:自分の主張の根拠となる「画像」を挿入できる
3:「画像」からわかる「事実」と「意見」(ほかに「予想」「結果」「考察」が選択できる)を書き分ける欄が設定されている
4:「画像」「事実」「意見」をひとつのまとまった段落(パラグラフ)として表示でき、画面上でパラグラフの順序を自由に入れ替えることができる

「小学校では頭括型、尾括型、双括型という論理的文章の型を4年生で習います。トップ画面でどの型で書くかを選び、編集画面ではパラグラフを自由に入れ替えられます。書いた後に文章の構成を見直し、これでいいかなと熟考させる、そこが児童に一番やらせたいところです。」

続けて、「画像の挿入機能にもこだわりました。最初の書き出しが苦手な子どもにとって画像は、文章を考える際の足がかりになるのです。」

「ロンリー」の動作確認や操作性も含めた予備実践をM県の公立I小学校6年生1学級31名を対象に行い、小学校高学年の授業で充分に活用できると判断した上で授業実践を実施した。

[授業実践対象]M県の公立T小学校6年生1学級18名 うち全ての実践に参加できた17名
[授業実践時期]2017年9月~12月 計4回の授業実践
[授業実践内容]国語・理科・社会の3教科で自分の考えを記述する場面で「ロンリー」を活用
[評価方法]児童への質問紙調査をプレとポストで実施

「ロンリー」を使った児童たちの反応はどうだったのだろう。

「手書きの作文よりも喜んで取り組む様子がうかがえましたね。文章の改善を嫌がらず、教師のちょっとした声かけで自発的に修正する子どもが多数観察されました。」

質問紙調査からは、以下のような特徴的な検証結果が得られた。

  • ◆ 「Q:文章を書くのは好きですか」に対する肯定的回答の値がポストで高くなり、同一課題で手書きさせた作文の文字量はポストで増加した。「ロンリー」の活用が児童の文章を書くことへの苦手意識の軽減に一定の効果があったことが示唆された。
  • ◆ 「Q:『ロンリー』で文章を書く時、画像があると文章が書きやすいですか」に対する回答は肯定的回答をした児童が有意に多く、画像の活用は児童の文章作成の支援として有効な方法のひとつであることが明らかになった。
  • ◆ 「Q:『ロンリー』でパラグラフを入れ替えることで、伝わりやすい文章になりましたか」に対して肯定的回答をした児童が有意に多く、「ロンリー」のパラグラフ入れ替え機能は、児童の文章構成の改善活動を促進すると推察された。
「ロンリー」の編集画面

「ロンリー」の編集画面

理科の実践における「ロンリー」の画面

理科の実践における「ロンリー」の画面

*3 アプリ「ロンリー」は第16回の研究助成期間にも改善され、2021年10月より「ロンリー3」が無償公開されている。

ログデータをグラフ化し児童へフィードバックする機能を追加

「ロンリー」活用に一定の効果の手応えを得た福島さんは、長期継続助成で「ロンリー」の機能改善を検討し、収集したログデータをグラフ化して表示できる機能を付加した「ロンリー2」を開発した。

「ログ収集機能は最初から付与してあり、子どもたちが文章をどう修正したか、パラグラフを何回移動させたかなど児童の文章作成や推敲過程を可視化できる貴重なデータが取れたんです。でもデータ量が膨大でCSVファイル形式でしか取得できず、研究利用はできても、児童本人が振り返りに活用したり、教員が作文指導のためのデータとして手軽に扱ったりすることはできませんでした。」

そこで福島さんは、「ロンリー2」に「キーワード設定」という新機能を追加した上で、ログデータの中から以下の3つを精選し、グラフ表示して児童にフィードバックできるよう改善した。

1:文章全体の累積文字数の変化
2:キーワードの累積出現回数の変化
3:パラグラフごとの移動回数の変化

「キーワード設定」を新たに付加したのには、どういう背景があったのだろう。

「小学校の国語の授業では説明文を読む時には、文章のキーワードを意識させる指導が行われています。しかし書くことに対しては、キーワードを意識させる指導はあまりなされていませんでした。」

さらに、次のような興味深いエピソードを聞かせてくれた。

「私が教職についたばかりの頃は、キーワードという概念が教育現場にはまだ浸透していませんでした。2000年代以降、ネット環境が次第に学校内に整備され始め、パソコン教室で調べ学習をするといった授業が始まった時、当時の子どもたちに検索をさせると文章を入れるんですよ。『修学旅行で広島へ行くので原子爆弾の◯◯について知りたい』というように。それでは検索にひっかかってこない。ですから、今日は何を調べるのか・調べるためにはキーワードは何にすればいいか、を前もって学習させていました。文書を書く時にキーワードを意識させる、という視点は大事だと思っています。」

「ロンリー2」は「ロンリー」と同様に授業実践で使用し、児童の振り返りの記述をもとに効果を検討した。キーワード機能やログデータをグラフ化して表示する機能は、児童に一定のフィードバックを与えるとともに、児童はそれを好意的に受け止めており、児童の「書くこと」への意欲につながる可能性が見出せたという。

共有・交流活動で児童どうしの添削は可能か

福島さんの研究の背景には、教師支援の側面があることも見逃せない。

第16回の助成研究では、教員の添削指導を伴わなくても児童の「書く力」を向上させ得る方策の可能性を探るため、ICTを活用して児童が書いた作文を共有・交流させる授業実践を行った。

「GIGAスクール構想の進展で、2021年には小学校でもひとり1台端末が実現しました。その後クラウドシステムを使って複数のユーザーが同じファイルに同時にアクセスして編集できるようになり、現在は『他者参照』*4と呼ばれる協働学習が注目されています。その先駆け的な試みでした。学習管理システムMoodle(ムードル)*5のフォーラム(電子掲示板)機能を使って、児童が作文をフォーラムに打ち込み、グループ内で相互コメントをつける形で共有・交流活動を行いました。」

[授業実践対象]M県のT市立小学校4年生1学級9名、M県のT市立小学校6年生1学級8名
[授業実践時期]T市立小学校4年生:2022年1月、T市立小学校6年生:2022年3月
[授業実践内容]T市立小学校4年生:課題の絵を見て自分が危険だと思うことを3つ、絵を見ていない人に文でわかりやすく伝える。T市立小学校6年生:6年間の教科書教材から自分のお勧めの話を250字程度にまとめる。4年生6年生ともに共有・交流活動で貰ったコメントをもとに最初に書いた文章を書き直す。【図1】【表1】

*4 学習者が他者の学習状況や考えなどをリアルタイムで自由に参照しながら、必要に応じて他者の知恵を借りて自らの学びを深める協働的な活動
*5 世界標準のオープンソース学習管理システム(LMS:Learning Management System)。国内外の大学や企業で広く使われておりオンライン授業や研修などに活用されている。

【図1】課題の絵

【図1】課題の絵

【表1】実際の共有・交流の例(M県T市立小学校4年生)

【表1】実際の共有・交流の例(M県T市立小学校4年生)

[振り返り]質問紙調査

小学校4年生を対象に行った予備実践では、相互コメントが全て感想になっており、コメントする際の視点を児童に与える重要性が明らかになった。そこで本実践では教師がどういう視点で友達の文章にコメントをつけるかを明確に指示するようにしたそうだ。

[結果と考察]

  • ◆ 小学校4年生以上では、学習管理システムを活用した作文の共有・交流活動は可能である。
  • ◆ 4年生では、文章を改善する際に、表現の工夫より、誤字脱字のような形式的な部分を意識しがちだが、6年生では「読み手にわかりやすい表現」になっているかという視点が持てている。
  • ◆ 発達的段階を考慮すると、小学校6年生では、共有・交流活動は児童の文章の改善につながる。
  • ◆ 共有・交流・改善活動のサイクルを繰り返すことで、教員の添削なしで、児童の文章改善に寄与する可能性がある。
  • ◆ ICTを使って書くこと、作文を共有・交流する活動は児童に「書くこと」ができるようになったという意識を持たせることにつながり、「書くこと」の苦手意識を軽減させられる可能性がある。

この結果を受け、福島さんは「ロンリー2」に共有機能を付与した。児童が完成させた作文をPDFファイルで保存できるようにし、端末どうしを連携させてファイルの転送や共有ができる「ロンリー3」へと改善した。

「書くことはどうしても個別作業になりがちです。しかしICTを活用し、友達とやりとりをするピア(Peer)活動*6を通じて、"ああ、そうか!"と気づきが生まれ、書けない子が書けるようになったり、文章量が増えたりすることが明らかになっています。第16回の助成研究の前に『会話作文法』=友達と会話することで気づきを得る、の実践的研究にも取り組んだのですが、クラウドシステムが入ってきたことで口述対話ではなく、記述対話ができるようになりました。今後の子どもたちの書く活動に大きなインパクトを与える学び方になるのではと思います。」

*6 児童生徒どうしが互いに協力・対話し、教え合い・支え合う学習形態

AIを学習支援ツールとして試用
児童の「気づき」を促す

ICTの活用による児童の共有・交流活動が、児童の作文推敲活動や、「書けるようになった」という効力感につながり、書くことに対する忌避感を軽減させることが明らかになった一方、実際にどの程度「書く力」が向上したかまでは検証できなかった。

そこで福島さんは第19回研究助成で、児童が書いた作文のルーブリック評価に「生成AI」を活用し、教員の負担軽減や児童の推敲力の育成を支援する授業実践を行った。

具体的には、児童が自分の作文と生成AIによる修正文を比較し、AIのアドバイスを読んだうえで「気づき」を記述する省察的活動だ。

[授業実践対象]M県の公立小学校5年生1学級11名
[授業実践時期]2024年10月~12月
[授業実践内容]国語科の授業のうち意見文を書く全単元4つ。プレとポストで同一課題を用いた同様の活動も実施し児童の推敲力の変容を確認する。
[使用したシステムと活動の流れ]学習管理システムMoodleを利用。児童が作文をMoodle上に投稿し、教員がその文章をコピーして生成AI(ChatGPT Team Plan 国語科作文指導に特化した本研究独自のモデルを構築)に入力。修正文とアドバイスを出力させ、児童のMoodleページに貼り付ける。児童は画面上で自分の意見文と修正文を左右に見比べながら10項目のアドバイスを読み、「気づき」欄に自身の学びや気づいた点を記述する。【図2】
[検証方法]ルーブリック評価:小学校学習指導要領解説(国語編)をもとにルーブリックを作成、「相手意識」「文章構成」「校閲」の3観点について3段階、4名で評価する。
質問紙調査:児童自身による振り返り。ルーブリックと同じ3観点を4件法(4点/とても当てはまる~1点/まったく当てはまらない)で回答させる。
気づきの記述分析:「気づき」に含まれるAIのアドバイス内容への言及など

[結果と考察]

  • ◆ 「文章構成」と「校閲」におけるルーブリック評価がプレとポストで有意に向上し、質問紙調査でも「校閲」の自己評価が有意に向上し、提出前に文章を見直す回数も増加していた。児童の見直しに関する意識の高まりと行動の変化が確認された。
  • ◆ 児童が記述した「気づき」には2~4項目のアドバイス内容への言及が見られ、アドバイスに対する省察的な理解と受け止めが行われていた。
  • ◆ 生成AIのアドバイスを肯定的に受け止める児童が多かった一方、一部の児童は批判的に吟味しており、一方的な受容ではなく、吟味しながらアドバイスを活用しようとする姿勢が芽生えていた。
【図2】児童が見比べる画像

【図2】児童が見比べる画像

実際の児童の「気づき」記述の一部を紹介する。

【(前略)「文末表現の統一」です。私は「◯◯と考える」「◯◯だ」「◯◯だろう」と書いてあります。AIは「◯◯だ」「◯◯ます」と混在していると書かれています。これは違うなと思いました。(中略)今回もAIに教えてもらい勉強になりました。「本当だな!」と思うものもあるけれど、「これは違うな!」と思うものもありました。】

「この児童は学力の高い子だと担任から聞きましたが、フィードバックを取捨選択できる力を養うことは重要だと思います。ただ、子どもには個人差があり、友達やAIのコメントを生真面目に受容して、直した文章が却って悪くなってしまうケースもあります。その辺りの教員による個人指導は必要だと思います。」

さらに続けて、「私が現場でよく言うのは、先生のコメントは子どもにとって絶対だということです。先生に"こう直したらどうか"と言われると子どもは必ず修正します。けれどもAIだと"いや、AIの方が間違っている"と言える。子どもたちにコメントを吟味させる時にAIは補助的ツールとして使えるのでは、と。」

一方、AIは児童の作文の修正文と10項目のアドバイスを、ひとりあたり1分で出力し、添削作業にかかる時間を大幅に削減できる可能性が示唆された。

「今は小学校の国語教材の比重が変わり、物語文を読み味わう単元から、構成を考えて文章を書く単元に大きくシフトしています。1年生でも同様です。ただ『書き直さない』という文化は相変わらずあって、教員が充分な添削時間が取れないのも昔と変わっていないように思います。けれども文章構成力はつけさせなければならない。その現場の困り感を支援してくれるツールとしてAIを活用できると考えています。」

福島さんは今後、先に述べた「記述対話」活動を通して、児童の推敲力を向上させる実践的研究に取り組みたいそうだ。

「子どもどうしの記述によるフィードバックはまだまだ浅く、"よかったよ"といった感想ひとことで終わってしまいがちです。AIを含むICTの活用によって、子どもどうしで相互フィードバックし合いながら記述対話力を養い、熟考して書ける能力につなげていきたいですね。」

最後にAIは今後、教育現場でどのように活用されていくのかうかがってみた。

「まだ過渡期ですので現場のコンセンサスも取れておらず、正直これからだと思います。インターネットが学校教育に入って来た時、ネットで瞬時に調べたことを書き写して提出するだけでは何の学びにもならないという批判がありました。しかしそれ以前には、国語辞書の使い方を教わったら『意味調べ』という宿題が出て、辞書で調べてノートに書き写す、この書き写すこと自体が学習であり、漢字を手書きで再現できるのが学力だとされていました。子どもたちに必要な力は何なのか、という学力観は時代とともに変わっていきます。キーワードを使ってネット検索をし必要な情報を集めて判断する情報活用能力は今の子どもたちには必須能力です。多くの大人も手書きで文章を書く機会がなくなり、漢字は手書きできなくても変換できれば支障のない時代になっています。AIの利活用はこれから現場が積み上げていくべき課題だろうと思います。」

北海道教育大学 大学院教育学研究科高度教職実践専攻 准教授 福島 耕平氏

現場の困り感は"研究の種"だと思います。日常的な実践を分析的に評価し、どう改善策を見出していくか。
「子どもたち書き直さないよね、じゃあどうする?」という視点が研究力であり、実践と研究は連関していると院生たちにお話しています。

  • vol.14 「書く力」を育む
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