第56回「博報賞」 博報賞受賞
[岡山県]津山市立西小学校
学校での学びが将来何の役に立つのか分からない―。かつて津山市立西小学校(津山市小田中)が行ったアンケート調査で、約3割の児童がこう答えたという。「子どもたちに学びの意義を体感してもらえる授業が必要だ」と同小教諭たちは痛感、熟慮の上で誕生したのが2022年度から行っているPBL(課題解決型学習)「かすちゃんタイム」だ。
児童の思いや問題意識を大切にした実践的な学習としてかすちゃんタイムは誕生。子どもたちが問題を見つけ、解決方法を調べたり、自分たちで考え出したりするだけでなく、解決に向けて実行・検証するのが特徴だ。
理想の未来像考え 地域課題を探求
4~6年生が総合的な学習の時間を使い、7~12月までの計35時で実施している。7月にスタートするとまず自分たちの住む津山城西地区がどんな地域かを調べたり、100年後の地元がどうなっているかを想像したり、どんな社会であれば「豊か」なのか定義。「100年後も豊かなまち津山城西の実現」を大きなテーマとし、一人一人が理想像を形にする。そして夏休みの課題の一つとして理想と違う部分や、地域の人が困っている〝問題〟を探すのが、かすちゃんタイムの第一歩だ。
2学期には児童の見つけた課題を、内容によって「観光」「食」「つくる」の3つの「ラボ」に振り分け、プロジェクトグループをつくる。同じ問題に興味を持った児童が学年を超えてグループをつくる点も特徴。これは同小が1学年1クラスの小規模校なのも理由の一つだが、「子どものニーズに全力コミット!」を合言葉に児童のやる気を大切にしているからこその仕組みだ。
この後、児童は問題解決のための企画書の書き方を学んだり、相談相手を選定したりしながら、プロジェクト内容を充実させ、3人の教師に合格をもらってから実行・検証に入る。課題の見つけ方から、問題をどう論理的に解決するかの発想、限られた時間でプロジェクトを完成させるためのスケジューリングまで、実社会でも役立つ考え方やメソッドを身に付ける。学校側も児童をさまざまな形でサポートしており、特に専用ポータルサイトが注目を集めている。
同サイトはインターネット検索大手が提供するクラウドビジネスを活用し、同小の宮澤康平教諭が構築。思考ツールやICT(情報通信技術)ツールが備わっており、電話のかけ方や商品の販売方法といった、社会人のマナーなども分かるようになっている。児童はデジタルマップ上に気になった場所や内容を記録し、計画の進行も管理。児童同士が相互に記録を閲覧できるほか、過去のプロジェクトのまとめを参照することもできる。また幅広く展開される児童のプロジェクトを少数の教師がきめ細かく指導する際にも役立っている。
児童が主体的に発案 市や企業から助言も
25年度は4~6年生計86人が19プロジェクトに取り組んだ。観光振興や地域活性化、地域清掃などの分野で、子どもならではのユニークな発想の活動が展開され、関係者から高い評価を受けた。この中から特に注目度の高かった2例を紹介する。
一つは犬と触れ合う教育活動「スクールドッグ」を同小に招くプロジェクト。きっかけは自宅で犬を飼い始めた5年生が「犬がいれば学校がもっと楽しくなる」と思いついたこと。校内で「犬が学校にいることをどう思うか」というアンケートをとり、賛成多数という結果から、日本スクールドッグ協会に相談、地元で活動する犬のハンドラー・井上政弘さんとラブラドルレトリバーのまりんちゃんにつながった。まりんちゃんは昨年10月から12月まで計7回来校。授業中に児童の座る机の間を巡回したり、休み時間に児童と触れあったりと大活躍した。「かわいくて、癒やされた」「学校に来る楽しみが増えた」と子どもたちの評判も上々だった。
二つ目はJR津山線にラッピング電車を走らせようというプロジェクト。発案した6年生は津山を訪れる観光客数やJR津山線の本数などを調べ、観光客を増やすためのアイデアとして提案。津山市の観光振興を担当する職員やJR西日本岡山支社の社員を招き、ラッピング電車の効果や観光振興の必要性をプレゼンテーション。両者からの指摘や修正案を受け入れて完成させたラッピング電車の企画書は、昨年11月27日に津山市役所を訪れた児童から谷口圭三市長(当時)へと手渡された。発案者は「関係人口の増加にとどまらず、津山市の人口を増やしたい」と高い目標を掲げている。
学びの大切さ実感し 社会参画の意欲に
かすちゃんタイムにおける同小の方針は、子どもの「したいこと」を優先し、活動を通じて可能性を伸ばしてほしいというもの。考え方や調べ方の基礎を教えたり、校外の自治体や企業への連絡などで教師がフォローする部分もあるが、実践面で決定権を持つのは児童。子どもたちは主体的に行動する中で、学ぶことの大切さを実感し、達成感を得ている。宮澤教諭は「期間を決め、問題の発見から解決策の策定、検証まで行うことを通して、〝自ら舵を切る〟体験をすることが大切だと考えている」と話す。
同小の小椋行治校長は「校内にとどまらない活動の広がりが、子どもたちの興味を満たし、社会とつながる実感を与えてくれている。人として社会に主体的に参画する意欲を培ってもらいたい」と期待する。
(企画・制作/山陽新聞社メディアビジネス本部 山陽新聞2026年3月17日 掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。
博報賞とは
「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団設立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など
現在、第57回「博報賞」の応募を受付中です!(応募受付期間:2026年4月1日~6月25日 ※財団必着)
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