第56回「博報賞」 博報賞受賞
[兵庫県]三木市国際交流協会
三木市国際交流協会の「こども日本語教室みきっズ」が開かれるのは金曜夜。アフガニスタン、シリア、中国、ネパール、ベトナム、ミャンマー、ラオスの7カ国の小中学生十数人が公民館に集まる。この日は児童発達支援を行う同市内のNPO法人「そいる」のワークショップが行われていた。タブレットを手に3Dデータづくりに挑戦する子、自分の考えたキーホルダーが目新しい3Dプリンターで形作られていく様子に興味津々な子…。ほかにもボランティアに学校の宿題を見てもらう子、友達同士で日本語のカードゲームをしている子など、さまざまな児童・生徒がリラックスした表情で過ごしている。「ここは多文化多言語の子どもたちが日本語を学び合う場所。学習だけにとどまらず体験活動も取り入れながら、子どもたちに寄り添う居場所づくりを目指しています」と同協会事務局長の河越恭子さんは話す。
半年から1年でようやく言葉を
三木市国際交流協会は1996年、国際交流についての理解と関心を高めるために「ひとつの地球 ともに生きる」などをスローガンに創立された。活動の転機となったのが2015年。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の仲介により、中東・アラビア語圏から複数の家族が転入してきたことだった。2011年から始まったシリア紛争での国外避難者は約400万人にも上り、一部の人々が日本にも逃れてきていた。
日本の小学校で国語科を習っても、「聞く」「話す」「読む」「書く」の実用的な日本語能力が身に付くわけではない。ゼロレベル(全く日本語が話せない)の子どもたちを何とか支援したいと、同協会は2016年の夏休みに高校生有志やボランティアとともに市内の小学校へ出向き、絵日記や工作づくりなどをサポートする「にほんごdeまなぼう」の前身の教室を企画。それを受講した保護者らの熱い要望を受けて、2020年に「こども日本語教室みきっズ」が発足した。
「みきっズ」は定期的に日本語学習を行う場として年間約30回開催している。退職教員ら20人近いボランティアが1対1に近い割合で手厚いサポート体制を取っているが、その関係づくりには時間を要する。
「知らない国で知らない言葉を突然勉強しないといけなくなった子どもたちのストレスは計り知れず、当初は孤独感や孤立感や劣等感を募らせている子どもたちが大半でした。それでもボランティアの皆さんを中心に大人たちが真摯に向き合うことで、半年から1年後には次第に口と心を開いてくれるようになります」と同協会で河越さんと二人三脚で活動を進める同協会理事の大西慶志さん。
「長く座っていられない子には『トイレは学習の前に』と声掛けしたり、漢字練習のときには『書きながら読みを声に出そう』と根気強くコツを伝えたりしていると、徐々に落ち着いて学習に意欲を出してくれる子が増えました」と河越さんも振り返る。
学習を超えた活動が自信につながる
大学生による防災学習、地場産業の職人を招いた出前講座などを企画し、学習一辺倒にならないよう工夫をしているのも特徴的だ。昨春に実施した淡路島へのバス旅行では、準備段階で子どもたちが自分のやりたいことを主張したり仲間がしたいことを尊重したりしながら、日程プログラムを日本語で作成して大きな達成感を得た。
学校生活では支援されることの多い子どもたちが、ここでは主体性を発揮できる。そういった自己肯定感の高まりによって、年下の子や自分より後に日本へ来た子を積極的にサポートする姿が見られるなど、さまざまな好循環が生まれている。居心地よく過ごせる場所からその一歩先へ、着実な前進を見せているのが最近の「みきっズ」。将来的には自信をつかんだ子どもたちが後輩のロールモデルとなり、支援する立場に成長することが期待されている。
地域の理解が広がっているのも朗報の一つだ。地元の飲食店が、外国人の子ども支援として「Sコイン」というプロジェクトを2024年から始めている。売り上げの一部が「みきっズ」に寄付されるほか、イベントなどで「Sコイン」を貨幣として使用できる仕組み。協会主催のイベントで、買い物を楽しむ子どもと対応する店員との交流も生まれているという。
地球人として応援し続けたい
三木市の在住外国人は2993人(2026年2月末)。アジア各国からの技能実習生を中心にこの10年間で約3倍に増えており、支援が行き届いていない子どもも大勢いる。「公的な受け入れ環境整備の必要性を訴えているのはもちろんですが、地域にも寺子屋のような場所が自発的に生まれてくれればと期待しています。私たちも最初は5人でこぢんまりと始めましたから」と河越さん。高い潜在能力を発揮して成長する子どもたちから多くを学び、やさしい日本語で伝えようとすることで思考力も高められるなど、大人も活動から得るものは多い。
河越さんや大西さんが「民族や国籍を超え、『地球人』として彼らを応援し続けたい」との思いで続ける活動は、創立当時に掲げたスローガン「ひとつの地球 ともに生きる」やSDGsの目標の一つ「誰一人取り残さない」を確かに実践している。
(企画・制作/神戸新聞社 神戸新聞2026年3月18日掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。
博報賞とは
「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団設立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など
第57回「博報賞」の応募受付を4月1日(水)より開始します。
詳細は博報賞のページをご覧ください。
*博報賞に関するお問い合わせ先
hakuhoushou@hakuhodo.co.jp (博報賞担当宛)




