コラム

Vol.133

by ひきたよしあき 2026.07.15

「夢中のコトダマ」

私が小学4年生のとき、担任の先生は、

「夏休み」

という言葉を使いませんでした。

そのかわり、

「夏の自由研究期間」

と言いました。

「夏休みは、ただの休み時間ではありません。学校でできない勉強をする時間です。勉強といっても、国語や算数とは違います。夏休みは、自分の好きなことを勉強する時間です」

好きなことは人によって違います。
サッカーが好きな人もいれば、料理が好きな人もいる。
昆虫が好きな人もいれば、動画を作ることが好きな人もいます。
好きなことがないならば、

「自分は何に夢中になれるのか」

を研究する時間が、夏休みだと先生は言いました。

当時は、「勉強なんてとんでもない。好きな時間に寝て起きて、好きなことをして過ごしたい」というのが私の本音でした。

夏休みがはじまって、数日はゆっくり寝て、夜更かしをして暮らしていました。
それに飽きてきた頃、友だちの奥野くんがやってきて、私に本を貸してくれました。

「名探偵シャーロック・ホームズ」シリーズの一冊、
「消えた地獄船」
という本でした。

あまりにも面白かったので、私に推薦してくれたのです。
その夜、夕食後に読み始めたのですが、面白くて、面白くて、一気に読んでしまいました。

私には、読書習慣がありませんでした。
親に「本を読め」と言われると、逆に読む気が失せました。

ところが、この本はページをめくるのがもどかしいほど。最後の方になると、終わるのが惜しくて、わざとゆっくり読みました。

奥野くんの家に本を返しにいくと、彼はこのシリーズをたくさんもっていました。
「白銀号事件」「顔のない男」「まぼろしの王妃」「恐怖の金庫室」・・・

それから毎日のように奥野くんの家に行き、本を借りました。
彼がもっていない本を、母に買ってもらって、奥野くんに貸したりもしました。

これまで味わったことのない読書の喜びが、私の中で生まれました。
奥野くんとシャーロック・ホームズのおかげで、私は、

「自分は何に夢中になれるのか」

を知ったのです。
人から押しつけられる本ではなく、自分の好きな本を読む。

「もっと読みたい、もっと読みたい!」

という「夢中のコトダマ」に取り憑かれたかのようでした。

まさに、学校ではできない勉強をした時間になったのです。

いかがでしょう。あなたも自分の好きなことを見つける夏休みにしてみませんか。

休む、遊ぶだけでなく、
「こんなことを知ることができた」
「こんなことができるようになった」
が一つでも加わったら、夏休みは素晴らしいものになるはずです。

もちろん、休むことも遊ぶことも大事です。
それらを含めて、充実した「自由研究」の時間を過ごしてくださいね。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。