コラム

Vol.129

by ひきたよしあき 2026.03.16

「別れのコトダマ」

3月は、お別れの季節です。
桜の花が舞い散るころに、卒業式が催されます。

昨日までの私たちの教室が、がらんとしている。
あと数日すると、ここに違う人が入ってくる。

友だちの顔、先生の顔。
楽しかったこと、つらかったことが、二度と戻らない「思い出」になっていく。

別れは、寂しく、つらいものです。

でも、考えてみてください。
あなたの胸がきゅんとしめつけられるのは、あなたが過ごした時間が本物だったからです。

どうでもいい人の別れは、つらくもありません。
むしろ、清々することだってあります。

別れのさみしさには、「ここまでよく歩いてきたね」
という達成感が含まれている。
別れは、あなたの成長の証でもあるのです。

別れは、寂しく、つらいものです。

でも、もし別れがなくて、いつまでもこの生活が続いてしまったらどうでしょう。
新しい人にも、場所にも、出会えません。
ワクワクすることも、ドキドキすることも少ないでしょう。

「別れ」の中には、「次の出会い」も含まれる。

だから卒業式のお別れは、ただ悲しいだけでなく、明日からの生活に、胸を膨らませる一面もあるのです。

私はこれまでに、多くの「別れ」を経験してきました。

転校、卒業、親との別れ、友との別れ、好きな人との別れ、愛犬との別れ・・・

別れたときは、どれも寂しく、悲しかったけれど、今は甘酸っぱい思いとともに、心がぽっと温かくなる。それらすべては、

「同じ場所にとどまらず、次の場所に行きなさい」

と私を後押ししてくれました。
胸に手を当てると、みんなが心の中に住んでいて、ずっと私を応援してくれている。
「別れのコトダマ」が聞こえてくるのです。

別れの日が近づいてきたら、心にカメラを置きましょう。今、「当たり前」に思える景色を写真撮影するように記憶してください。
毎日使っているカバン、靴、文房具、校庭、校舎、友だち、先生、通学路、色々なものを鮮やかな思い出として残しましょう。
10年後、20年後、その当たり前の景色を見て

「あぁ、懐かしい」

と、ほっこり笑顔になるあなたがいるはずです。

「別れ」は、消えてなくなるのではなく、「思い出」にかたちを変えること。

その思い出を未来のあなたのために、いっぱい残してください。

卒業、進級おめでとう。
ここまでよく歩いてきたね。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。