コラム

Vol.128

by ひきたよしあき 2026.02.16

「心機」のコトダマ

中学受験の勉強をしていた頃の話です。

模擬試験で、「心機一転」を「心気一点」と書いてバツをもらいました。

「え?気持ちを切り替えるのだから、『気』ではないの?
なんで「機」なんて字を使うの?」

と、間違いをなかなか認められず、辞書で調べてみました。

すると「機」には、「きっかけ」や「タイミング」という意味があることがわかりました。

つまり、心機一転とは、気合を入れ直したり、前向きになる決意を表す言葉ではなく、

あることをきっかけにして、がらりと気持ちを変えること。

心機一転するためには、きっかけが大事なんだと学びました。

気持ちを切り替えるためのきっかけには、いいことも、悪いこともあります。

進学、合格、勝利したのをきっかけに心機一転。
不合格、けが、人間関係で苦しんだことをきっかけに心機一転。

結果として「新しい気持ち」になれるなら、きっかけは、いいことでも、悪いことでもかまわない。
この言葉の中にはどこにも「努力」とか「気合」みたいな意味はありません。

大切なのは、何かをきっかけにして、視点を少し変えること。
これが「心機一転」するためのコツなのです。

私は、小学4年生から受験勉強をしていました。
ところが、受験の直前に交通事故で入院。
努力は、水の泡になりました。

落ち込んだなんてものじゃない。
小学生にして、人生が嫌になっていました。

友だちが、私の志望校に合格したのを聞いて絶望も嫉妬もしました。

そんな折に、父の転勤が決まり、みんなとは違う中学校に進学することになったのです。

これが私にとっては「心機一転」になりました。

進学できなかったことを忘れて、新しい自分を見つけよう。

仲間のいない中学校の名前に私は、「心機のコトダマ」を感じたのです。

その後の人生でも、幾度か心機一転する場面がありました。
父の転勤で環境が変わるような大きなきっかけでなくても、誰かの言葉、旅したときの景色、病気、人との絆の中で、私は

「よし、ここで心機一転!」

と、声に出し、顔をあげてきたのです。

今は、受験の合否がでる頃です。
来月は、卒業式をはじめ様々な別れが待っています。

それらを、よいきっかけとして、心機一転。
新しい自分に出会ってください。

応援しています。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。