コラム

Vol.91

by ひきたよしあき 2023.01.16

時分のコトダマ

日頃は介護施設に入っている母と
お正月を家で過ごしました。

毎年、同じ時期に同じように過ごす。
しかし、以前には感じなかった母の老いを
今年は特に感じました。

90歳を超えて、なお健康な母です。
しかし、目、耳、足の衰えは顕著でした。
母の姿を見ながら、

「いつかは自分がこうなるんだ」

と実感。
「時間」の大切さをあらためて知る
お正月になりました。

世阿弥が書いた「風姿花伝」の中に

「時分の花」

という言葉があります。
若い生命が持つ鮮やかで魅力的な花。
若さのオーラです。

誰もがこれをもっているのですが、
残念ながら、オーラがあるうちは
それに気がつかない。

いつまでも青葉若葉と思っていた
葉の色が変わり、花が散る。
そのときになって初めて、
「若い生命のオーラ」に気づく。
人間とは、なんとおろかなのでしょう。

このコラムを読んでくださる方は
若い人、または子どもの教育に
携わる方が多いと思います。

若さのオーラ、「時分の花」を
思う存分咲かせている人たち。
羨ましい限りですが、しかし、
こんな心配もあります。

「時分の花を生かしきれてない
若い人が多すぎないか」

早くに達観し、老成し、
「人生なんてこんなもの」
と悟り顔になっている。

未来に夢を描けず、
現状にうずくまっている。

もちろんコロナ禍をはじめ
一寸先が不透明な時代です。
夢を持てという方が、
無理なことも承知です。

しかし、だからと言って
人生に一度限りの「時分の花」の
季節を無駄にするのはもったいない。

「若さ」という特権をもっと
使って、トライ&エラーを繰り返して
ほしいと思うのです。

様々な学校を訪れると、多くの先生たちが

「子どもたちが、失敗することを
極端に恐れている」

と言います。一度の失敗がネットなどで
拡散されることを考えると、確かに
なるべく失敗を避けて、てっとり早く正解を知って
無難にこなしたくなる気持ちもわかります。

しかし、残念なことに「時分の花」は
正解のときには、あまりオーラを発揮
しません。失敗し、苦杯をなめ、
そこから立ちあがろうとするときに
生命のオーラは、光り輝く。
それが、「時分の花」の美しさなのです。

2023年、若い皆さんには
ぜひ、「時分」というコトダマを
信じてほしい。
そして、鮮やかな生命力のオーラを
輝かせてほしいのです。

どんどんチャレンジしましょう。
失敗したって、へっちゃらですよ。
何をやっても今の皆さんは、
輝いている。

時間を大切に使いましよう。
若さという特権を存分に味わってくださいね。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。