コラム

Vol.89

by ひきたよしあき 2022.11.15

「ラクしたい」のコトダマ

「どうすれば、もっとラクにできるか。
それをいつも考えなさい」

小学生の頃に通っていた学習塾の先生の
口ぐせでした。

我慢強くなろうとするより、ラクにできる
方法を考える。楽しく、長続きできるように
工夫する。その試行錯誤を繰り返すうちに
勉強が苦でなくなる。
先生は、私たちにこう語りました。

例えば、スケジュールはどんどん変更する。
計画通りに行かなくて、

「あぁ、今日もサボってしまった。僕は
怠け者だ」

なんて嘆く必要はない。サボったらすぐに
スケジュールを組み直す。そのクセをつける
方が大事だと習いました。
これが、その後の私の人生にどれほど役に
たったことか。

ひとりで勉強するよりも、友だちと
勉強しなさいとも言われました。
試験勉強で、先生がどこを出題しそうか。
いわゆる「ヤマ」をはるときは複数で
やった方がいい。

「なるほど、そこを重要と考えるのか」

と思うことが勉強につながる。
これもグループでものを考える訓練になりました。

そのほかにも

足を温め、頭を冷やせ。

ひとりごとを言いながら勉強すると
記憶に残る。

専門用語は、わかりやすい言葉で
言い換えよ。

気が乗らないときは、くじびきで
勉強する教科を決めろ。

などなど、「勉強」そのものよりも
効率的に勉強の成果を上げるための
コツをたくさん教えてくれました。

「わかった!と思うことほど
気持ちのいいものはない」

という先生。
問題が解けたとき、目を細めて

「気持ちええやろ。スカッとしたやろ」

と言ってくれた。
おかげさまで、気持ちよくなりたくて
勉強するようになっていきました。

もちろん、勉強は楽しいばかりでは
ありません。辛くて、面倒で、飽きてしまう
ものです。
だからと言って、「勉強は、つらい」「勉強は
嫌い」と決めつけてしまうと、元に戻れなくなる。
気持ちのいい瞬間を味わう機会が激減してしまうのです。

楽しくなるように、ノートの取り方を変えてみたり、
いつもと違う場所で勉強してみたりする。
自分を「優等生」だと信じて、優等生らしいふるまいを
してみる。何曜日が一番効率よく勉強できるか、分析する。

自分が一番効率よく、そして楽しく、
勉強できる方法をあれこれ思いつく。
それを試しているうちに、いつの間にか
勉強好きになっていた。

精神論や根性論よりも
「ラクしたい」というコトダマの
力を借りて、どうせやるなら要領良く
学んでいきたいものです。

私は今でも、この学習塾で学んだ
ことを実践しています。
人生をよりよくするためのコツを
すべてここで学んだと思っています。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。