コラム

Vol.74

by ひきたよしあき 2021.08.16

ひとりぼっちのコトダマ

小学校を3回転校しました。

校歌も校章も友だちも、
ある日を境にすっかり変わる。
学校の雰囲気も勉強の速度も
すべて違う環境になれるまでに
ずいぶん時間がかかりました。

当時はひどい人見知りで、
自分から声をかけることができません。
休み時間にドッヂボールはするものの、
黙って逃げてばかりいました。

5年生の転校は中でもきつかった。

市内でもすぐ隣の学区なので、
自転車に乗ればすぐに元いた友だちの
ところに行けます。

引っ越したばかりの頃は
よく遊びに出かけていたのですが、
やがて、自分はもうこの学校の生徒
じゃないとわかってくる。

みんなの話題についていけない。
少しずつみんなが私に気を遣うように
なっている。
それが辛くなって、遊びにいくのを
やめました。

「僕は、ひとりぼっちだ」

と思うと、涙がでてくる。
よほど辛かったのか、今でも
時折、当時の寂しさがよみがえることが
あります。

この期間に覚えたのが、読書でした。

当時は、ゲームもスマホもありません。
暇な時間をつぶすのは、本のほかには
ありませんでした。

兄の部屋にあった「アルセーヌ・ルパン」
が面白かった。
続いて「シャーロック・ホームズ」も読んだ。
「怪人二十面相」のシリーズを読み出して、
こっそり学校に持っていったところで
同じクラスのO君が声をかけてきたのです。

「『二十面相の呪い』、読んだか?」

私が、首を横にふると、

「貸したるわ」

と言って、次の日もってきてくれました。

O君は、子どもなのにおじさんっぽい
人でしたが、実によくものを知っている。
家に遊びにいくと、「怪人二十面相シリーズ」が
ずらりと並んでいました。

それから色々な本を読むようになりました。
けして「読書が好き」というわけでなく、
せっかく仲良くしてくれたO君が貸してくれた本を
読まないと悪い気がしたのです。

その頃、エジプトの「ツタンカーメン王」にはまって
いたO君につられて私も読みだしました。
自分で本を選ぶことは、稀。
O君が「おもろいで」という本を素直に
読むのが私の読書のはじまりでした。

本には、いろいろな力があります。

寂しさを癒してくれます。
友だちを連れてきてくれます。
知らない世界を教えてくれます。

コロナ禍で、家にいることの多い今、
私は、しばしば一人でいることが
いやになります。

そんなとき、
「ひとりぼっちのコトダマ」が
私にこう囁いてくれる。

「本を読もう。きっとまた
O君みたいな人に出会えるから」

もう50年も前の友だちの顔を
思い浮かべながら、夜はずっと
本を読み続けています。

  • ひきたよしあき プロフィール

    コラムニスト。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、読者である子どもたちとの文通も行っている。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)、「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)等。