コラム

Vol.43

by ひきたよしあき 2019.12.23

休みのコトダマ

休むことが苦手です。
休み方を知らないのです。

高度経済成長時代に生まれ、
右肩上がりの気分のまま
バブルまで経験した。

明け方近くまで飲み歩き、
金曜日に香港に行き、中華を食べて
日曜日に戻る。
月曜日から元気に出社した。

そんな時代を生きてきたせいか
休み方がわからない。
休むことが極端に下手なのです。

もちろん、ダラダラすることは
できます。
寝だめもします。
時折、飲んだり騒いだり、
ショッピングにも行くけれど、
それでも休めない。
余計に疲れてしまう。

「休むのが苦手でさぁ」

と現役の大学生に語ったら、

「それは、身体のことしか考えてない
からですよ」

と言われてしまいました。

学生曰く、休ませなくては
いけないのは、身体と頭、そして心。

このどれかが働いていると、
休みにはならないのだとか。

「寝ていても、起きたら、また
仕事のこと考えてるでしょ。
そこでげんなりしちゃったら、休めない
んです」

と、20歳そこそこの人に
休み方の指南を受ける。

「まず、スマホですね。私たち、
もう一日中スマホみたりしませんから」

へぇ、そうなんだ。
若い人ほど、スマホを眺めているのかと
思った。

「そういう人もいるけれど、やりすぎると
頭が休まらないんです」

横からもう一人の子が口を出します。

「あと、人間関係ね。これ、心が
疲れます」

なんだかおかしい。本来、そういうことを
注意するのが私なのではないか。
なぜ、彼女たちに「休み方指南」を受けて
いるのだろうか。

「いいのはね。料理ですよ。
作っている間、何も考えないし
クリエイティブだから。達成感もあるし」

「あとは、旅行って決めないで旅行すること。
『旅行』って決めちゃうと疲れちゃう。
ぱっと知らない駅で降りるとか。そういうこと」

とアイデアがどんどん出てくる。

「結局、私たちの親世代(私のこと)は、
貧乏だったから、休めないんですよね。
うちの親もいっしょです」

貧乏・・・
いや、私たちはもっと景気のいい時代を
生きていたぞ!

と反論しようものなら、

「それが貧乏なんですよ。身体と心と頭の
休め方も自分でわからないなんて、豊かな
暮らしといえますか?」

ぐうの音もでない。

聞けば、彼女たちは、SNSとも距離を
おいている。

「大学入ったころがピークだったかなぁ。
今は、そこまでのめり込んでないですねぇ」

「ネット、ネット、SNSって大騒ぎしている
のが、おじさんぽいんですよ」

とがんがん攻めてくる。

孔子様の唱えた「中庸」、なにごとも
ほどほどにという考え方に関しては明らかに
学生の彼女たちの方が上です。
実践者でもあります。

「ひきたさん、休みが下手なんて言って
ないで、料理覚えてください。かっこ悪い
ですよ。料理ができないなんて」

「外食ばかりって、それこそ休まらない
じゃないですか」

という彼女たちは、お酒も乾杯のときだけ。

「身体、頭、心を休める」
これが「休みのコトダマ」の真髄らしい。

これを意識して暮らしているのは、
複雑にネットワーク化された世の中を
生き抜く術だからでしょう。

「ひきたさん、この話も、どこかで
ネタにする気でしょ。そういう顔して
聞いているもの。そういうのが、ダメ
なんですよ」

と叱られたにもかかわらず、この文章を
書いています。

休み方を知らない。
休むのが苦手です。

もう治らないのかも。

  • ひきたよしあき プロフィール

    博報堂クリエイティブプロデューサー/スピーチライター
    早稲田大学卒業後、博報堂に入社。クリエイティブ局で、
    CMプランナー、クリエイティブ・ディレクターを経て現職。
    明治大学で教鞭をとるかたわら、朝日小学生新聞にコラムを連載、
    読者である子どもたちとの文通も行っている。
    facebookには年間約1000本のコラムを投稿し、幅広い世代から
    圧倒的な支持を得ている。
    2018年4月より、博報堂教育財団コミュニケーションコンサルタントとして
    の活動もスタート。
    著書に、「大勢の中のあなたへ」(朝日学生新聞社)、
    「博報堂スピーチライターが教える口下手のままでも伝わるプロの話し方」
    (かんき出版)、「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』
    『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)等。