日本研究
フェローシップ

第12回最終研究報告会

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2018年8月24日
会場:東京コンファレンスセンター・品川

博報財団が主催する「国際日本研究フェローシップ」の第12回研究報告会が開催され、前期で研究を終えた黄 永熙先生を除く招聘研究者12名が日本滞在研究の成果を報告しました。報告後の質疑応答では、審査委員、受入担当教授からも多くの質問やコメントが寄せられ、研究に対して活発な意見交換がされる充実した研究報告会となりました。


報告を終えた研究者の感想をご紹介します。
「自分と同じ時期に招聘された研究者の方々がどのような研究を行い、どのような結果が出たのかを知ることができ、とても刺激を受けました。自分の専門分野と近い分野の研究者の方の報告はもちろんですが、全く違う分野であっても、『こういう視点があったのか』という発見があり、興味深く聞かせていただきました」(ザルテン先生)

「この報告会には、審査員の方々、受入機関の担当教授の方々など、日本研究の素晴らしいメンバーが揃っていて、交流できたことを嬉しく思っています。また、この半年間、研究に集中できる機会をいただき、充実した時間を過ごすことができたことを博報財団に感謝します」(シラネ先生)

「私は短期招聘研究者なので、今回の招聘でこのように研究者が集まり、自分の研究について報告する場を経験したのははじめてのことでした。研究者として大変、貴重な経験となりました。質疑応答でいただいたご意見を、今後の研究に役立てたいと思います」(ヘリヤー先生)

「報告後の質疑応答でご意見、助言をいただき、とても嬉しく思いました。私は文学が専門なので、どうしても文学の中でものを考えてしまいがちなのですが、他分野の研究者の方々の発表をお聞きして、歴史や文化を視野に入れて考えることも重要だと気がつきました」(梁先生)

研究報告

研究報告は、報告15分、受入担当教授によるコメント5分、質疑応答5分という構成で行われました。今回、報告を行った研究者は、日本語・日本語教育研究が5名、日本文学・日本文化研究が7名。このうち短期・後期招聘研究者は6名、長期招聘研究者は6名です。
研究者全員が限られた日本滞在の時間を有効に使い、精力的に研究活動をしたことを物語る充実した内容の報告でした。
今回の報告会では、研究者が各々のテーマの研究に挑み、大きな成果を得た一方で、新たな課題の発見も多かったようです。質疑応答では、今後の研究の進め方について、それぞれの見地からアドバイスやリクエストも多く寄せられました。

(以下敬称略・報告順)

1.野田 眞理
オハイオ州立大学(アメリカ)東アジア言語文学科・教授
『外国人による日本語弁論大会─半世紀の受賞者スピーチから探る弁論の形、日本に向ける視点─』

2.ピッツィコーニ バルバラ
ロンドン大学(イギリス)アジア・アフリカ研究学院・准教授
『日本語の待遇表現についての言説』

3.ザルテン アレクサンダー ニコラス
ハーバード大学(アメリカ)東アジア言語文明学部・准教授
『日本における「アマチュア」メディア文化の過去と未来』

4.シラネ ハルオ
コロンビア大学(アメリカ)東アジア言語文化学部・学部長/教授
『メディア・芸能・民衆文化 ─日本文学の脱中心化─』

5.ヘリヤー ロバート インガルズ
ウェイク・フォレスト大学(アメリカ)歴史学科・教授
『1850年代~1950年代、日本茶輸出のグローバル・ヒストリー─生産から消費までの担い手に関する社会経済史的考察─』

6.ホメンコ オリガ
キエフモヒーラアカデミー国立大学(ウクライナ) 人文学部歴史学科・准教授
『幸せを求めて─戦後日本の婦人雑誌広告と女性─』

7.王 世和
東呉大学 日本語文学系・教授
『文脈重視の日本語教育法の研究─テイルの用法を例に─』

8.オーバーヴィンクラー ミヒャエラ マリアンネ
テュービンゲン大学(ドイツ)アジア地域文化研究所 日本学科・研究協力者
『文字による新たなコミュニケーション─SNS言動行動の特性分析─』

9.クック ライアン マーシャル
エモリー大学(アメリカ)映画・メディア学/東アジア学科・助教授
『日本映画を通した1960年代の考察─イメージ及び記憶としての昭和30年代─』

10.サストル グレゴワル シモン ジャン
東亜文化研究センター(フランス) 博士研究員
『日本軍の情報機関の創立とその影響(1870~1918)』

11.洪 善英
翰林大学(韓国)日本学研究所・研究教授
『1910年代の劇場形態の韓日比較研究』

12.梁 青
厦門大学(中国)外文学院 副教授
『古今集前夜における日本漢詩の和様化─島田忠臣と菅原道真を中心に─』

審査委員による講評

招聘研究者の報告後、井上 優審査委員長より講評をいただきました。
「成果報告は15分という短い時間ですが、研究成果を簡潔に説明することは、研究者にとって腕の見せ所ともいえます。研究にあたり、"情報を得た"ことは第一段階。その情報が自分にとってどのような意味を持ち、それをもとにどのように考察したのか、その結果何が"わかった"のかという第二段階に関して、もう少し研究の核心に触れる話が聞けるとよかったです。」という主旨のお話がありました。研究者の皆様には、この経験を今後の研究報告の場で活かしてほしいと思います。
また、その他の審査委員の先生方から「質疑応答の際、審査委員だけでなく、受入担当の先生方々、招聘研究者の方々からも質問があり、活発な意見交換ができたことが有意義であった」、「受入担当の先生による解説により、その研究がその分野でどのような意味を持っているのかよく理解できた」、「様々な専門分野をもつ先生方にお集まりいただいたことで、審査委員がカバーしていない分野でも適切な助言ができた」などのご意見をいただきました。一方で、「長期招聘研究者は、中間報告との重複を避け、中間報告からどのような進展があったのかをわかりやすく見せる工夫が必要」、「調べて得た情報なのか、それとも本人による見解なのかを明確に示してほしい」といった今後の課題も挙げられました。
今回の成果報告は、研究内容、質疑応答ともにレベルが上がっており、博報財団の「国際日本研究フェローシップ」という制度が着実に成長していることを実感できる報告会となりました。

研究慰労・交流会

報告会終了後、会場を移して研究慰労の交流会が開催されました。審査委員、受入機関の教授及び窓口の方々を交え、研究についてのざっくばらんな意見交換、情報交換をして研究者同士の交流を楽しみました。会場では、ヘリヤー先生の発表の際に話題に上った「茶摘み」の歌を皆で歌う場面も見られ、終始和やかな雰囲気でした。