コラム

Vol.84

by ひきたよしあき 2022.06.15

雑談のコトダマ

とある大学の学生から

「雑談の仕方を教えてほしい」

と依頼がありました。
この大学では、学生たちが今一番
悩んでいることを話し合い、
講師を決め、自分たちで講義を
つくります。

2年ぶりのリアル授業が始まった
ものの、人とうまく話せない人が多い。
高校の2年間がコロナ禍にあった
新入生は、リアルな友だちが作れない。
そんな悩みの解消を引き受けました。

学生たちは言います。

「何を話していいのかわかりません」

「雑談のゴールはなんですか」

「話が行き詰まったときは、どんな
話題に振ればいいのですか」

「どこまでプライベートな話を
していいのかわかりません」

彼らはネットで「話し方のコツ」や
「コミュニケーションの極意」といった
コンテンツをよく見ています。
そのせいもあって、

「話は結論から話す」

「ゴール設定をしてから話す」

といったノウハウを雑談に活かそうと
するのです。

私は、

「雑談には、目的も結論もゴールもない。
雑談は、精神のスキンシップだ」

と言いました。

学生は、きょとんとしています。
「何か目的を示してほしい」
という顔をしています。

そこで、

「雑談とは、
『この人とまた会いたい』と
思ってもらえるように語ることだ」

と言いました。

何かを教えようとか、正当性を主張しようとか
結論を考えず、その場を楽しくするように、
笑顔をつくり、相手の話をよく聞き、
相槌や驚きの声をあげる。
主語を「私は」ではなく、「あなたは」にして、
相手の話を引き出すように語る。

こう教えて、10分の雑談を4回やりました。
毎回、新しいメンバーで、一から語り合う
ようにしてもらいました。
雑談の最中にも、質問を受け付けました。
学生が寄ってきて、

「一人の人が、自分の話ばかりして
他の人が発言できません」

「自己紹介のあと、沈黙が続きます」

「全然、喋らない人がいます」

やってみてわかる問題点に対し、
ブレイクの時間に答えていきます。

繰り返すうちに、だんだんと声が
大きくなり、笑い声の聞こえるグループも
でてきました。

コツやノウハウ以上に、
知らない人同士で話し合う経験が
彼らに「雑談とは何か」を教えているのでした。

終わったあと、彼らからは
こんな感想が語られました。

「なんの話をしたのか思い出せないけど、
とてもスッキリしました」

「『また会いたいと思う人』がいました。
私もそう思ってもらえたらいいなと思いました」

「頭でっかちに考えすぎていたみたいです。
子どもの頃みたいに話せばいいんだと
わかりました」

2時間のうちに彼らの心に
「雑談のコトダマ」が芽生えていくのを
感じました。

大人は、「雑談なんて、考えなくてもできるだろ」
とすぐ言います。
しかし、コロナ禍で人と会うことがままならず、
その間にバーチャルで語り合うことを覚えた
彼らと私たちでは、前提が違うのです。

コスパ、結論、ゴール、目的、意味などを
考えず、「あなたといっしょにいると楽しい」
と味わう。
リアルなキャンパスのあちこちに、
雑談の花が咲くことを願いつつ、
大学をあとに。
今度は、講義ではなく、学生たちと
雑談したいと思いました。

  • ひきたよしあき プロフィール

    作家・スピーチライター
    大阪芸術大学客員教授
    企業、行政、各種団体から全国の小中学校で「言葉」に関する研修、講義を行う。
    「5日間で言葉が『思いつかない』『まとまらない』『伝わらない』がなくなる本」(大和出版)、「人を追いつめる話し方、心をラクにする話し方」(日経BP)など著書多数。