入賞者・入賞団体

2022年度の入賞団体に、応募のきっかけ、読書推せん文に取り組んだときの児童・生徒の様子、コンクール参加後の読書活動の変化などについてお聞きしました。
※お話を伺った先生の肩書きは2022年度のものです。
2020年度入賞団体の声はこちら

大崎町立持留小学校

(鹿児島県)

本が好きになるきっかけをつくるために、コンクールに取り組みました。児童も教職員も少しずつ意識が変化しています。

奥州市立水沢中学校

(岩手県)

GWの課題にすることによって、生徒のお気に入りの本を参考に図書館の新しい本を選ぶなど、いいサイクルが回っています。

モントリオール日本語補習校

(カナダ)

特定の誰かにすすめる、マンガでもいい、字数が少ないなど、日本語で伝えることが苦手な生徒にも取り組みやすかったです。

女子美術大学付属中学校

(東京都)

みんなの前で、好きな本の推せん文を発表してもらい、生徒同士がお互いのことを知る機会を作ろうと考えました。

川越市立新宿小学校

(埼玉県)

子どもたちの読書の幅が広がることや、自分の想いを発信できるところが、このコンクールの魅力です。

大崎町立持留小学校

(鹿児島県)

読書が好きになるきっかけとして
 本校は全児童25名の複式学級校です。25名全員が読書好きとは言えなかったので、読書が好きになるきっかけをつくるために、このコンクールに取り組むことにしました。
 昨年は5月に入るとすぐに、全児童参加でコンクールに取り組もうと、学級担任に伝えました。低学年の子どもたちは、学級担任のサポートをもらいながら、夏休み前に推せん文を仕上げました。高学年の子どもたちは、夏休みの前半を使って、タブレット端末に推せん文を打ち込んでいきました。そして9月初めには、全児童が校長室に集まって、楽しく会話しながら、専用の原稿用紙に清書しました。そのときの子どもたちの、やる気に満ちた様子が思い出されます。

友だちにすすめられて新たなジャンルに挑戦する子も
 応募をきっかけに、子どもたちはお互いに、お気に入りの一冊を紹介し合うようになりました。そのことによって、本を読む子が増え、これまで自分が読んできたのとは異なるジャンルの本に、挑戦しようという子どもたちも見られるようになりました。
 全職員も熱心にコンクールに取り組んでくれました。コンクールへの応募をきっかけに、読書指導係や学校図書館司書が職員研修に積極的に参加するなど、教職員の意識も少しずつ変わってきています。
誰ひとり取り残すことなく
 SDGsではありませんが、誰ひとり取り残すことなく、児童全員で取り組めたことが、学校としての大きな収穫になったと思います。受賞は子どもたちにとって、大きな自信になったのではないでしょうか。 日ごろから読書活動の応援をしてくださっている地域の団体「更ちゃんの会」のメンバーの方々は、受賞結果の載った新聞広告をご覧になって、とても喜んでくださいました。受賞は大崎町の広報誌にも紹介され、教育長からは、手作りの栞が、全児童と全学級担当に届けられました。

自分の考えを堂々と発信できる子に
 さまざまな情報がはびこる時代だからこそ、自分の思いや考えを自分の言葉で文章に綴れるようになることは、大変重要だと考えています。言葉の持つ力を大事にしつつ、周囲に思いやりの心を持ち、自分の考えを堂々と発信できる子どもが育っていくことを願っています。


(校長 幸福ひとみ先生)

奥州市立水沢中学校

(岩手県)

取り組みやすさが魅力
 本校では、1、2年各4クラス、3年5クラスの、388名の生徒が学んでいます。昨年は、そのうち約8割の生徒が、このコンクールに応募しました。
 コンクールの存在を知ったのは、新聞広告でした。私と学校図書館の司書の先生が、同じ日に地元紙を見て、「これ取り組みたいね」と意見が一致し、さっそくゴールデンウイークの課題にしました。図鑑でもマンガでもいい、字数は250〜300字程度ということで、これなら文章を読んだり、書いたりするのが苦手な生徒でも取り組みやすいと思ったからです。
誰かに本をすすめる楽しさ
 今、生徒たちを取り巻く環境は、デジタルなものに満ち満ちています。余暇をゲーム機の矢印キーだけで済ませてしまっている生徒もいます。もしかしたらマンガさえ読まない子どもが増えているかもしれません。そういう子どもたちに、マンガでも図鑑でもいいから読んで、誰かにおすすめする文章を書くという経験は、表現力を育てるために役立っています。
 本校では、図書委員会が主催してPOPづくりにも取り組んでいます。POPの優秀作品を図書館や校内に掲示することはもちろん、市内の中学校や高等学校とも交流しています。また、各種コンクールにも出品しています。POPの目的も、誰かに本をすすめることなので、読書推せん文とPOP制作の両方に取り組むことで、自分が読んだ本を誰かにすすめることが楽しくなり、積極的に取り組む生徒が増えてきました。

いいサイクルで回っていく
 このコンクールに取り組むことは、私たち教師の側にもメリットがあります。私は全校生徒が書く推薦文に目を通すときに、誰が何の本について書いているかを全部メモするようにしています。それによって、子どもたちの現在のお気に入りの一冊がわかるので、その情報を学校図書の先生とも共有して、図書館に新しい本を入れるときの参考にしています。
 また、応募用紙には「保護者の方がお書きください」という欄があるので、子どもたちが書いた文章に保護者の方たちも目を通してくださいます。そうやって保護者とも連携できるのは、とてもありがたいことです。コンクールを課題にすることによって、学校図書館や保護者と連携するという、いいサイクルが生まれました。
本をすすめることを文化に
 このコンクールへの取り組みも、今年で3回目になります。誰かに本をすすめるという習慣は、生徒たちの間でかなり根づいてきました。本校では、夏休み前には教員、さらには、スクールカウンセラーの先生やALTの先生、用務員の方々にまで、おすすめの本を紹介してもらっています。毎年、図書委員が冊子にして全校生徒に配ることで、生徒の夏休みの本選びに役立っています。「誰かに本をすすめるということ」を学校全体で取り組み、これからも本校の文化にして大切にしていきたいと思います。


(国語科 伊藤明美先生)

モントリオール日本語補習校

(カナダ)

夏休みの宿題にピッタリ
 本校では、小学1年生から中学3年生まで、130名前後の児童・生徒が学んでいます。現地の私立の女子校の校舎を、毎週土曜日にお借りして、週1日、午前9時から午後3時半まで開校しています。主にモントリオール在住の日本人駐在員のお子さんや、カナダ人と結婚された日本人のお子さんが通っています。
 このコンクールのことは、インターネットの「登竜門」というサイトで知りました。私は、小学6年生と中学1年生の国語と社会を担当しているので、担当クラスの28名にコンクールに挑戦してもらうことにしました。このコンクールは、特定の誰かに本をすすめる、マンガでもいい、字数も250〜300字と、とても取り組みやすく、子どもたちの夏休みの宿題にぴったりでした。

日本語で伝えることを学ぶ機会に
 カナダの学校の夏休みは長く、2カ月半ぐらいあります。夏休みの途中に、私が推せん文の書き方の授業のような映像を撮って、YouTubeを使って子どもたちに見てもらいました。対象は小6と中1なのですが、わざと小2や小3が読むような本を選んで、「こういう相手にこのように書けば、気持ちが伝わるんだよ」「コンクールだからといって難しく考えずに、身近な人に伝えるように書けばいいんだよ」と説明したら、子どもたちはホッとしたようで、次々と提出物が届くようになりました。
 カナダで育った子どもたちは、表現することには躊躇がないのですが、それをうまく日本語で伝えられないというジレンマを抱えています。また、漢字に対して苦手意識がある子が少なくないので、とてもいい学びの機会になりました。

本と触れる機会を増やすために
 補習校では、大きめのキャビネを2つ置かせていただいて、それを図書室がわりに活用しています。保護者の方々の協力で、休み時間には貸し出しができるようにしています。また、年に2回は休み時間を長めにとって、ブックフェアを開催し、破格の値段で本を販売したり、縁日のような食べ物や日本の雑貨を用意したりもしています。子どもたちはみんな、そこで何冊か本を購入します。ただ、本の絶対量が少ないのが悩みなので、今回、団体賞でいただいた図書カードは、有効に使わせていただきます。
 私は今年も小6と中1を担当していますが、昨年、団体賞をとった子どもの中には、「先生、今年は私が個人賞もらうね」と強気な発言をする子もいるので、楽しみにしています。

(小学6年生・中学1年生 国語・社会担当 藤田邦子先生

女子美術大学付属中学校

(東京都)

コンテストに取り組んだ3つの理由
 本校は女子美術大学と同じ敷地の中にあり、中学と高校は同じ校舎で学んでいます。生徒数は、中学と高校合わせて1,000名を超えます。みな美術が大好きです。
「お気に入りの一冊をあなたへ」は、コンテスト情報サイトの、「登竜門」で見つけました。取り組んでみようと思った理由は3つあります。
 私は昨年度、中学3年生を担当していましたが、この学年は入学時からコロナ禍の影響で、学校行事の中止や縮小があり、生徒同士がお互いを知る機会に恵まれませんでした。そこで、好きな本について文章を書いて、みんなの前で発表してもらおうという計画を立てていました。発表をすれば、「友だちはこういうものが好きなんだ」「こういうことを考えているんだ」と分かる、よい機会になると思ったからです。そこに、ぴったりのコンテストを見つけたので、活用してみようと考えたのが、ひとつ目の理由です。
 もうひとつは、本校の生徒は、俳句や短歌、短い文章が得意な者が多く、さまざまなコンテストで受賞歴があるので、このコンテストは向いていると考えたからです。でも、短い文章は言葉を選ぶものです。授業には長い文章の無駄を削ぎ落とす課題があります。このコンテストは250~300字という絶妙な設定で、女子美生にぴったりでした。
 3つ目の理由は、好きな本を「誰かにすすめる」というお題が出ていたことです。読書感想文は、ともすると自分の思い込みだけで書いてしまうところがありますが、誰かにすすめるとなれば、作者が何を伝えたくて書いているのかを考えるきっかけになります。また、年齢や立場の違う人にすすめるのであれば、さまざまな視点で作品に向き合うことにもなるので、国語の学習としてとてもいいと考えました。
自分の気持ちを揺さぶったものは何か
 生徒に漫画でも写真集でも絵本でもいいと伝えると、最初は驚いて、そのあとは大喜びでした。ただ、何を選ぶかの選択肢が広がったので、自分の読書経験の振り返りだけでなく、自分の気持ちを揺さぶった作品は何だったかを洗い出す生徒ももいました。みなそのプロセスを楽しんでいたようです。
 団体賞の副賞として、かなり高額な図書カードをいただきました。該当学年の生徒には、「普段買えないような豪華本でもいいから、女子美生の栄養になるような本を紹介して」と募集をかけているところです。出てきたものを国語科の教員で精査して購入する予定ですが、どんな本が候補として上がってくるか楽しみです。

(国語科 村田智美先生)

川越市立新宿小学校

(埼玉県)

全校児童の90%が応募
 本校は、学級数21の中規模校です。前任の校長先生が、新聞でコンクールの広告を見つけられて、全校で取り組むことになりました。
 このコンクールは、ただ本を読むだけでなく、自分の好きな人に想いを発信できるところが魅力です。また、子どもたちには、いつも同じような本ばかり読む傾向がありますので、読書の幅が広がることも期待しました。友達が想いを込めてすすめている本なら、読んでみたいなと思ってくれるのではないかと考えたのです。
 全校で取り組んでいただくには、まず先生がたからということで、校内の研修会で話をしました。この取り組みは、子どもたちがおすすめの本を選ぶ段階から、いろいろな本と出会うことができるし、好な本に対する思いがあふれるような活動なので、ぜひ参加しましょうと話しました。結果として、全校児童の約90%が応募してくれました。

子どもへの理解が深まった
 私は昨年度、5年生の担任をしていましたが、子どもたちが選んでくる本を見た時に、子どもへの理解が少し深まったような気がしました。やんちゃな男の子がファンタジーの本を持ってきたり、おとなしい女の子がスポーツ根性ものの本を紹介してくれたり、私たちが日常目にしている姿と、子どもたちの内面世界は、少しズレていることもあるのだということに気づかされました。
 コンクールへの取り組み方ですが、5年生の授業の中ではそれほど時間が取れなかったので、読書の時間に、「今書きたい人は書いてもいいし、家に持って帰って書いてきてもいいよ」と伝えました。低学年などは、家に持って帰るとわからなくなってしまうので、授業中に一斉に書いていたようです。保護者会の時に、「こういう取り組みをします」と広めてくれた学年もありました。
今年度は「おはなし読書タイム」を実施
 団体賞の発表は、ちょうど3月でしたので、校長先生が終業式のお話の中で、「すばらしい賞に入りました」と発表してくださいました。校長先生のお話はモニター越しだったので、どこの教室からも大きな歓声が上がりました。
 本校では、本を読むということにプラスして、読書を中心とした子ども同士のコミュニケーションを図っていきたいと考えています。昨年、このコンクールに取り組んでヒントを得たのですが、今年は月に一度、読書の時間に、「おはなし読書タイム」を全校で実施することにしました。子ども同士で小さなグループを作って、低学年は表紙を見せながら「なぜこの本を借りたか」について話をする、中学年は自分の好きな本からクイズをひとつ出題する、高学年は2分間のミニミニ・ビブリオバトルをやって、チャンプ本をクラスの中で紹介し合うという取り組みです。
 入賞作品の冊子をいただいたので、その中から私たちがいいなと思うページを拡大コピーして廊下に掲示してあります。それを見ている子どもたちに、「今年は個人賞をねらおうね」と、ささやこうかなと思っています。


(司書教諭 中島晶子先生)