「博報賞」
受賞者の活動紹介

第56回「博報賞」 博報賞受賞
[静岡県]学校法人 ムンド・デ・アレグリア学校

母語教育で「豊かな心」と「考える力」を、日本語教育で「生きる力」を
日本語教育領域

南米日系人の子どもが学べる学校を作る

 静岡県浜松市にあるムンド・デ・アレグリア学校は、ブラジルやペルーなどの南米日系人の子どもたちが通う外国人学校だ。現在、幼稚園から高校生までのクラスがあり、約200名の子どもが通い、母語と日本語によるバイリンガル教育を受けている。
 製造業が盛んな浜松市は、1990年の改正入管法施行を契機に、南米日系人労働者が急増。労働者の親とともに来日する子どもたちも増加した。2003年に本校を開校し、現在も校長を務める松本雅美さんは、元々、地元の大手自動車メーカーで南米日系人の採用担当をしていた。当時、市内にブラジル人学校は5校ほどあったが、ペルー人学校は一つもなかった。会社退社後も日系人との付き合いを続けていた松本さんは、ペルー人の保護者からペルーの公用語であるスペイン語で勉強できる場所を作ってほしいと懇願される。そのときを振り返り、松本さんはこう話す。「日本の学校に通い日本語で日常会話はできるようになっても、学習上必要な学習言語能力が育たず学業不振に陥る。また、子どもたちは母語も確立できていない上、忘れてしまうこともある。成長期である大切な時期に親子の会話が成り立たなくなることは大きな問題だった」。学校でも家庭でも自分の思いが上手く伝えられず、いじめにあったり、孤立する子どもは少なくなかったという。
 「私は教員免許を持っていたし教えることは好きだったので、寺子屋のような場所をイメージして学校を作ったら数々の困難が押し寄せてきた」と苦笑する。設立する学校は「私塾」だとされ公的援助が得られず、校舎や資金の確保は進まない。松本さんは私財を投じて事務所を借りてようやく開校するが、あれほど学校を望んでいたペルー人も開校説明会には50家族参加したのに入学したのは13名。経営赤字は続き、この先の道はないと閉校を決意した松本さんだったが、そこに朗報が届く。学校存続を望む地元企業53社から寄付を受けたのだった。「企業の支援は社会的信用も得られ、ターニングポイントとなった」。その後、学校法人の認可を受け、生徒数も増加。2010年には浜松市が旧町役場を学校施設に改装した校舎に移転し、現在に至る。

小学4年生の日本語の授業風景
小学4年生の日本語の授業風景

日本語教育の指導法や教材を独自に開発

 本校では「母語教育で豊かな心を育み、日本語教育で生きる力を身につける」をモットーに、子どもたちが将来の夢を持ち、自分の未来を自分で切り開く力を育むことを目指している。全国の南米系外国人学校で唯一、スペイン語圏の子どものためのペルー課程とポルトガル語のブラジル課程があり、それぞれ母語と日本語の両輪での教育に取り組む。その理由を松本さんはこう話す。「子どもが思考力や自らのアイデンティティーを育み、母国への誇りを持つために母語の教育は必須。その上で、第2言語としての日本語指導に力を入れ、地域社会に溶け込めるよう日本の文化や習慣、マナーを教えている」。
 日本語教育においては、日本語に苦手意識を持たないよう、独自の指導法や教材を開発した。例えば、ペルー課程のひらがな表には、「あ」にアルパカ、「ま」にマチュピチュなど子どもたちに馴染みのある絵が描かれている。漢字指導では、漢字の「形」と「意味」を母語で学ぶ。象形文字である「人」や「木」は絵の中に漢字を入れ込み、絵で表現できない場合、例えば「休」は「人が木の横で疲れて休んでいる」と教える。他にも漢字学習へのモチベーション向上のために漢字道場(漢字昇級試験)の実施や、日本語能力試験(JLPT)への挑戦を勧め、各レベルの対策講座も開講。子どもの学習意欲を引き出すための様々な工夫を凝らす。また、外国人労働者の定住化が進む市内において多文化共生社会を目指し、地域のお祭りなどに参加し、地元の人々や日本の子どもたちとの交流も積極的に行っている。
 この日、取材したのは、小学4年生の日本語の授業。教室から聞こえてきたのは、日本語の歌だった。日本人教師が教壇に立ち、子どもたちは「♪1日、2日、3日~」「♪月曜、火曜、水曜~」「♪優しい、悲しい、嬉しい、難しい~」など日本語の単語をメロディーに乗せて歌い、楽しみながら学んでいた。授業に出席していた子ども2名に学校のことや将来の夢を尋ねると「僕は日本語や漢字を勉強するのが好き、折り紙を折るのも好き。将来の夢はサッカー選手。ずっと日本で暮らせたらいいなと思っている」。「学校では先生が勉強をしっかり教えてくれる。私はアートが好きで、将来は服のデザイナーになりたい。東京にも行ってみたい!」。二人とも目を輝かせて答えてくれた。

ペルー課程のひらがな表と漢字指導の教材
ペルー課程のひらがな表と漢字指導の教材

日本と南米の架け橋になる人材育成を目指す

 松本さんに今後の展望を聞くと「地域の南米系外国人学校の中で、モデル校(センター校)になること」だと語る。地域では母国に帰るための教育のみの学校もあるというが、子どもの将来を考えると、バイリンガル教育を実践する意義を強く感じているという。「親の就労に左右され、いつまで日本に住むのか分からない不安定な環境で学ぶ子どもは多い。そのような状況でも母語と日本語ができれば、子どもたちの未来に選択肢の幅がぐっと広がる」。実際に卒業生の進路は多様だ。日本の大学、専門学校への進学、地元企業への就職するケース、母国の大学やアメリカの大学へ進学する生徒、母国の大学で医学部へ進学し医師を目指す卒業生もいるという。「日本とペルー、日本とブラジルの架け橋となるような人材に育ってほしい」と力を込める。
 「ムンド・デ・アレグリア」とは、スペイン語で「歓びの世界」という意味。「多文化共生も学校運営も決して簡単ではないが、すべての子どもに学ぶ歓びを知ってほしい。そのための努力は惜しまない」と松本さん。創立から20余年、子どもたちの夢がふくらみ、笑顔が弾ける学び舎は、地域とともに歩み続ける。

ムンド・デ・アレグリア学校
松本 雅美 校長

三重県出身。南山大学外国語学部イスパニア学科卒業。スズキ株式会社人事部採用課で日系人採用を担当。2002年、在東京ペルー総領事館主催の教育フォーラムに総領事より要請されボランティアとして参加した際、ペルー人保護者に「浜松にスペイン語で学べる学校を創って」と懇願される。私財を投じて「ムンド・デ・アレグリア学校(歓びの世界)」を設立。

(企画・制作/中日新聞メディアビジネス局 中日新聞2026年3月17日 掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。

博報賞とは

「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団設立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など

第57回「博報賞」の応募受付を4月1日(水)より開始します。
詳細は博報賞のページをご覧ください。
*博報賞に関するお問い合わせ先
hakuhoushou@hakuhodo.co.jp (博報賞担当宛)

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