第56回「博報賞」 博報賞・文部科学大臣賞受賞
[静岡県]磯部 真代(浜松市立蒲小学校 教頭)
地域に開かれた学校を図書館から展開する
グローバル化や少子高齢化など、社会が大きく変化する中で「地域とともにある学校」が求められている。文部科学省は、学校と地域が力を合わせて学校運営に取り組むコミュニティ・スクール(以下CS、学校運営協議会制度)を提唱し、各地で特色ある学校づくりが進められている。今回受賞した磯部真代氏(浜松市立蒲小学校教頭)の「つながる学校〜社会に開かれた学びの実現へ〜」はCSの取り組みの一例で、学校図書館を起点に児童、学校と地域をつなぐだけでなく、学校図書館を文化的拠点へと成長させていく活動を展開してきた。
「学びのマップ」作成 教育活動全般を可視化
2019年、教職大学院での研究をもとに浜松市立芳川北小学校で「つながる学校図書館プロジェクト」を始めた。「学校は大人になるための準備期間。その過程でさまざまなつながりの中で子どもが人生を楽しみ、世の中には素敵な大人がたくさんいて、世界が無限に広がっていくと感じる—。そんなビジョンを描いて、ブックカフェやわくわくライブラリーなどさまざまな企画を進めてきた。この小学校には第1、第2図書室があり、ある日の第2図書室の来館者が一日に3人のこともあった。もっと子どもたちと心の距離を近づけることで、この宝箱のような図書室でいろいろなことができるのではないかとプロジェクトを構想した」。例えば、ブックカフェではボランティアによる読み聞かせを皮切りに、アナウンサーを招いた講座や書道講座など学校図書館を拠点に地域に開かれ、つながっていく形が実現した。「PTAに音楽家の方がいらっしゃったというつながりを生かしたり、介護施設で働く方をブックカフェに招いたりした。先生方にも地域の魅力を共有することで教育活動に生かすことができればと考えた。図書委員の子どもたちの『何かしたい』という意見も取り入れた」
また、教職員支援機構の研修で学んだカリキュラム・マネジメントの視点から学校の教育活動全般を可視化した「学びのマップ」を作成。図書館との連携を見える化し、図書を活用する場面、地域人材を招く場面を「地図」として共有することで、授業にも活用できるツールとした。
「学校全体が図書館」創造的な学びの場に
次の勤務地である浜松市立与進北小学校では「つながる学校図書館プロジェクト」のコンセプトを発展させた。学校図書館横のパソコン室を、「ラーニング・コモンズ」の発想によって多機能・多目的ルーム「よきたルーム」に整備した。調べ学習や読書活動ができ、交流が深められる「創造的な学びの場」となった。校長のビジョンを踏まえ、「パソコン室の愛称を募集した際、学校運営協議会の協力のおかげで応募のポスターやボックスを置いていただき、子どもや学校に関わる多くの人から投票やアイデアをいただいた。地域の皆さんの協力を得て、『ひだまり』という名前に決まったときは記念コンサートも開催した」
また、「どこでも図書館」は、図書館補助員とともに階段の踊り場や学年掲示板の前などに、学校のどこでも本と出合える空間を作り、子どもたちの学習を支えた。さらに、CSと「よきたコミスクカフェ」を開き、学校、家庭、地域がつながる場を持ったり、子どもたちが学校運営協議会委員に自分たちの考えを伝えたりする活動にもつなげた。
地域や歴史を大切に子どもの笑顔支える
磯部氏は現在、浜松市立蒲小学校の教頭として、校長のビジョンをふまえ、3年計画の「咲かそう!蒲桜プロジェクト」を進めている。同校は児童数約1000人のマンモス校で152年の歴史がある。地域の特色や学校の文化、歴史を大切にし、CSとして学校・家庭・地域とゆるやかにつながりながら、学校として子どもたちの地域愛を育んでいる。学校運営協議会の熟議を踏まえ、学校支援コーディネーターやCSディレクターとともに、子どもと地域をつなぐボランティアのシステムづくりにも努めている。
同校では「町の花づくりグループ蒲」「わくわくお話会」など、継続したボランティアの取り組みが行われてきた。既に地域に根差した形で続く活動に、学校図書館の「つなぐ」機能をプラスし、子どもたちが地域と出合い、自分自身やその背景となるものへの誇りを育み「一人ひとりの蒲桜を咲かせることができるように」が目標だ。
蒲小を含めた3校の取り組みはそれぞれ独立しているものではなく、地域や学校の特性に合わせて発展させている。磯部氏は「汎用性のある実践なので、役立てていただけたらうれしい」と話す。
学校図書館を子ども、教職員、地域の人々が集い、学び、つながる場とする地道な活動が評価されての受賞となった。20年以上の教職と司書教諭としての経験などから、磯部氏は学校図書館を「常に新しいアイデアで成長し続け、積極的に未知の世界とつながり、自発的に学ぶことの楽しさや喜びを体感することのできる無限の可能性をもった場所」と捉える。その上で「学校図書館を単なる学習センター、読書センターという位置づけではなく、多機能化することで、さまざまな教育課題の解消につながるのではと考えた」
また、活動の原動力として「みんなの幸せ」と「ワクワクする学校作り」を挙げる。それだけでなく、「たくさんの人々の力で実現し、皆さんの思いやりや優しさで活動ができている。伝えたいのは地域ごとにたくさんのヒーローがいること。感謝を伝え、地域とともにある学校として、みんなの笑顔あふれる学校・地域となっていってほしい」と語る。「学校図書館は多様性・包摂性を併せ持ち、学びを広げ、深める役割を果たすことができる。学校図書館法で示されるように、図書館は『教育課程の展開に寄与する』場所であり、文部科学省の有識者会議の議論にあるように、学びの深化を担う場所や子どもの居場所、地域をつなぐ場など、教育課程の展開に寄与する存在として、人に幸せを運ぶ場所であると考えている。今後もみんなでアイデアを持ち寄り、学校の個性を生かして、みんなの笑顔を育むウェルビーイングの向上につなげていきたい」と話した。
(企画・制作/静岡新聞社地域ビジネス推進局 静岡新聞2026年3月13日 掲載分より転載)
※記載の所属・役職は、受賞当時のものです。
博報賞とは
「博報賞」は、児童教育現場の活性化と支援を目的に、財団設立とともにつくられました。日々教育現場で尽力されている学校・団体・教育実践者の「波及効果が期待できる草の根的な活動と貢献」を顕彰しています。また、その成果の共有、地道な活動の継続と拡大の支援も行っています。
※活動領域:国語教育/日本語教育/特別支援教育/日本文化・ふるさと共創教育/国際文化・多文化共生教育 など
第57回「博報賞」は4月1日(水)より応募受付を開始します。
詳細は博報賞のページをご覧ください。
*博報賞に関するお問い合わせ先
hakuhoushou@hakuhodo.co.jp (博報賞担当宛)




