入賞者・入賞団体

2024年度の入賞団体の先生方に、各団体の取り組みのほか、応募のきっかけ、読書推せん文に取り組んだときの児童・生徒の様子、コンクール参加後の読書活動の変化などについて、コンクールを主催する博報堂教育財団の中馬淳常務理事がお話を伺い、対談しました。
※お話を伺った先生の肩書きは2025年度のものです。
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世田谷区立三宿中学校

(東京都)

周りに本の良さを伝えるというのは、いい対話ができて、とてもいい経験になると思っています。
対談相手:畑美希子はたみきこ先生/
図書館司書・加見谷享史かみたにたかふみさん ※リブネット所属

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昭和女子大学附属昭和小学校

(東京都)

児童が書きやすい字数であることや「どんな本でもいいよ」というコンセプトに共感しました。
対談相手:
校長・前田崇司まえだたかし先生/
司書教諭・荻野玲子おぎのれいこ 先生

昭和女子大学附属昭和小学校セクションへ

準備中

準備中

準備中

準備中

世田谷区立三宿中学校

(東京都)

写真_世田谷区立三宿中学校_1
三宿中学校図書室で
(左から)加見谷司書、畑先生、中馬理事

推せん文をつくり廊下に掲示

中馬淳常務理事(以下、中馬) 小中学生が読書に親しむための新しい切り口がないか、ということで、博報堂教育財団では、 2020年に、 読書推せん文コンクールを立ち上げました。 その後2022年から毎年おこなっており、昨年が第4回、今年の募集で第5回となります。昨年の団体賞を受賞したひとつ、三宿中学校で、子どもの読書機会をどう増やしているかをお聞きします。


畑美希子先生
世田谷区立
三宿中学校
畑美希子先生

畑美希子先生(以下、畑) もともと三宿中学校では、年に1回全学年で本の推せんをおこなうビブリオバトルを予選から決戦まで大規模におこなってきました。
古文の読書指導などでは、『枕草子』などの古典を40冊購入して、ひとクラス全員で同じ本を読むといった取り組みもしてきました。『枕草子』などはエッセイなので、どこから読んでも読めますし、有名な冒頭の「春はあけぼの」ばかりではなくて、「恐ろしげなもの」で「つるばみ(=ドングリ)のかさの部分」とあったりして、どこかに気づき、発見があるんですね。そうした取り組みで、生徒が興味を持った本について、タブレットPCを使い推せん文を作る指導もしてきました。完成したものは一枚の紙に印刷をして、廊下に掲示をしてきました。


加見谷享史司書(以下、加見谷) 図書館としては、とにかく来館してもらおうと、スタンプラリーやおみくじ、本の福袋というような試みをしています。おみくじで「大吉」などと書いてある裏を見ると「おすすめの本はこれです」という書き込みがあるなどの工夫をしています。
『徒然草』の読書指導の際には、「令和の世の中は、鎌倉時代からこんなふうに変わりました」という手紙形式の文章を作り兼好法師に手紙を書くといった取り組みもありました。


選択の決めては書きやすさ

中馬 このコンクールを、どうやってお知りになりましたか。


加見谷 夏休みの宿題にしたいという意向が先生にあったので、ネット検索をして探しました。こうしたコンクールのまとめサイトがありましたので、そちらで各コンクールの比較をすることができました。読書推せん文コンクールは、課題の文章量が長くないので書きやすい、感想文ではなく推せん文なので、さらに書きやすい、入選者数が多いので入選しやすい、この3点で選びました。


図書館に飾られている読書推せん文コンクールの賞状
図書館に飾られている読書推せん文コンクールの賞状

 今までの指導のなか、この学校の生徒は面白い文章を出してくるという印象が強かったので、こういうコンクールに出ることでさらにいい文章ができるのではと思って応募しました。生徒の反応は「副賞の図書カード1万円を狙え」と、言い方はあれですが目の色が変わって(笑)。
生徒のことばだと「ワンチャンあるぞ」という感じ。ひとりで複数の推せん文を提出した生徒もいました。「団体賞と個人賞のダブル受賞もできるぞ」とさらにモチベーションが上がったりもしました。文章の量が読書感想文に比べてかなり少ないので、それも生徒たちのやる気につながったと思います。


相手を意識して熱意を伝える

中馬 生徒さんが作られた推せん文の作品がこちらにありますが、タブレットPCを使って作成しているんですね。


生徒が夏休みの宿題として作った推せん文
生徒が夏休みの
宿題として作った
推せん文

 「ロイロノート」というアプリを使って、すすめたい相手、本の題名、出版社名、推せん文を作れるように枠を設定して、本の表紙写真はネットからダウンロードを生徒にしてもらって、夏休みの宿題として作ってもらいました。そして、プリントアウトしたものを、廊下に掲示することで、お互いの推せん文をみて、意見や感想を伝えあうという場も生まれました。
実際の応募は手書き必須なので、改めて応募用紙に書き写してもらいましたが、その際も書き直す機会になり、より内容が吟味されました。対象の本の限定がないので、生徒は何について書いてもいい、難しい本だから入選するわけはない、という理解もしていたようで、きちんと相手意識を持って熱意が伝わるような文章を作っていたと思います。とても書きやすかったという意見が多かったですね。


読書体験を伝えることで対話が生まれる

人気がアップした8類の棚と加見谷司書
人気がアップした8類の棚と加見谷司書

加見谷 読書推せん文コンクールの対象は小説ばかりではありません。図鑑でもいいし、子どもの頃に読んだ絵本でも対象になります。こうした取り組みを重ねてきたからか、図書館の「人気の本棚」ばかりに生徒が集まるのではなく、たとえば8類の棚には言語に関する書籍が集められていますが、そうした棚に手をだす生徒が増えたりしていました。 生徒の興味の幅が広がったようにも感じられます。


 生涯にわたって読書に親しめる土壌をつくるのが中学校の役割だと思っていますが、1年の時には図書館にも通いたくさん本を借りていたのに、2年、3年となって受験勉強が始まると、借りる冊数も少なくなっていくのが通常なんですね。なるべくそうならないように指導を重ねますが、そのなかで読書推せん文はとてもいい試みになりました。
読書はひとりでするものなんですけど、周りに本の良さを伝えるというのは、いい対話ができて、とてもいい経験になると思っています。


中馬 ありがとうございます。先生たちがオリジナルで考えられてきた読書への取り組みが基本にあって、今回の応募、受賞につながったということがよくわかりました。今年の応募もお願いします。

昭和女子大学附属昭和小学校

(東京都)

写真_昭和女子大学附属昭和小学校_1
昭和小学校のエントランスにて
(左から) 中馬淳常務理事、
司書教諭の荻野玲子先生、
前田崇司校長

読書を通じて思いやりや想像力を育てたい

前田崇司校長
昭和女子大学附属
昭和小学校
前田崇司校長

前田崇司校長(以下、前田) 昭和小学校では「Lead Yourself 自分リーダーシップ」というモットーをかかげ、自尊感情の育成と主体性をはぐくむ教育をすすめています。具体的には多くの授業を英語で学ぶ「国際コース」と、言葉と体験を重視し、非認知能力を育成する「探究コース」を開設し、学びを充実させています。両コースとも力を入れている「言語」に関する教育活動の中に読書があります。


中馬淳常務理事(以下、中馬) とても幅広い教育をされていますね。その中で読書を大事にされていることがわかりました。博報堂教育財団は「子ども・ことば・教育」をテーマに、感じ、考え、表現する力をはぐくむ活動を続けています。「言語」を大切にするという部分で共通しますね。


前田 読書を通じて思いやりや想像力を育てたいと思っています。1~3年生は週1回、4~6年生は2週に1回、読書指導の時間があり、児童は本が大好きです。


中馬淳常務理事
博報堂教育財団
中馬淳常務理事

中馬 昭和小学校のように、子どもがもっと本に親しめたらよいですね。そのために博報堂教育財団では何ができるかを考えました。そこで歴史ある「読書感想文」とは少しアプローチを変え、本を「読む」だけではなく、すすめたい相手に向けて「気持ちを言葉にする」という要素をかけ合わせた「読書推せん文」のコンクールを始めたのです。



書きやすい字数やどんな本でもいいことに共感

荻野玲子先生(以下、荻野) 読書の時間の基本的な構成は、読み聞かせ、話し合い、記録カード記入、自由読書です。図書館にあるじゅうたんを敷いたスペースを使い、児童は靴をぬいで、くつろいだ雰囲気で読書の時間を過ごします。
 たとえば先日、2年生の読書指導で『わすれられないおくりもの』(スーザン・バーレイ作・絵/小川仁央訳 評論社)を取り上げました。これは、アナグマからネクタイの結び方やスケート、料理などを教わった野原の友だちがアナグマの死を悲しみ、そしてアナグマが残してくれたおくりものの豊かさで、悲しみも消え感謝できるようになるお話です。私が読み聞かせをすると、「みんなにいろいろ残したけど、アナグマさんは何をもらえたのかな」という疑問が出ました。すると他の子たちが「みんながありがとうと言ったのがおくりものだったのでは」「みんなが忘れないということがおくりものでは」などと意見を出しました。このような話し合いを20分くらいします。次に記録カードに本の題名などを記入し、残りは好きな本を読んでよい時間です。授業の最後には読んだ本を「これおもしろかったよ」と、みんなの前で紹介することもときどきやっています。

荻野玲子先生
6年生の「お気に入りの一冊」をまとめた
図書館だよりを紹介する司書教諭の荻野玲子先生
文化祭の展示
読書推せん文を文化祭の展示にも活用している。保護者にとても喜ばれたとのこと。

中馬 読書の記録をつけているのですね。


荻野 記録カードは6年間ファイルし、図書館で借りたすべての本のリストとあわせて卒業時に「おめでとう」の気持ちを込めて児童に渡しています。後になって、自分が小学生のときにどんな本を読んでいたか思い出してもらえたらうれしいです。本校の読書教育の根本にあるのは「心を育てる」ということ。4月はともだち、7月は平和などのテーマを設定して、毎年、全校で同じテーマの本を読みます。記録カードに書かれるコメントが、「ともだち」を例にとれば「いつもいっしょにいたくなる人」(1年生)、「やさしくておもしろい人」(2年生)だったのが「なんでも相談できる人」(4年生)、「信頼しあえる人」(5年生)と、学年が上がるごとに変化していくので、理解が深まっていることがよくわかります。


中馬 読書を真ん中に置いたすばらしい教育をされていますね。なぜ読書推せん文コンクールに応募してくださったのでしょうか。


荻野 ひとつは読書推せん文に似た「紹介文」という活動をしている点にあります。2年生は生活科の「ようこそ1年生」という単元の学びとコラボして、1年生に向けておすすめの本を紹介します。3年生は図書館の本の帯を作ります。本に巻く帯は、限られたスペースを使って言葉やデザインに工夫をこらしてその本の魅力を伝える部分です。4年生は教科書にある「新聞を作ろう」の発展として読書新聞を作ります。時間をかけてじっくりと取り組みます。5年生になると、これは最近始めたのですが「もし新しいお札を作るなら、あなたはどの偉人を選ぶ?」というテーマで伝記を掘り下げます。6年生は自由参加で図書館のPOP作りをするほか、年度末の「図書館だより」で全員が後輩たちに向けた「お気に入りの一冊」を紹介し、全校に配布しています。このような活動をしていたので、募集広告を見つけたときに「子どもたちが楽しみながらできそうだな」と思って応募することにしました。もうひとつの理由は、2、3年生の夏休みの課題にぴったりだと思ったことです。児童が書きやすい字数であることや「どんな本でもいいよ」というコンセプトにも共感しました。読書があまり好きではない子たちにもよい刺激になっていることを感じています。


中馬 紹介文はすばらしい活動ですね。選考委員の先生方といつも話すのが、どうしたら「本を読むことはおもしろい」と思ってもらえるかということ。読書の楽しさや喜びを子どもに伝える教育をされていることに感銘を受けました。


荻野 これからも「本は楽しい」と思ってもらえるよう、読書の時間を充実させていきたいです。取り上げる本を選ぶときには「お気に入りの一冊ライブラリー(※)」を活用していますよ。


中馬 ありがとうございます。昭和小学校の活動を、ぜひほかの学校も参考にしてもらえたらと思います。私自身は、このコンクールをきっかけに本に興味を持った子どもたちのために、次はどんなプログラムがあったらよいか考えたいと、思いを新たにしました。


お気に入りの一冊ライブラリー … 過去の入賞作からおすすめの本を検索できる、博報堂教育財団運営のブックガイドサイト。